研究課題/領域番号 |
23510068
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
小島 正美 金沢医科大学, 看護学部, 教授 (40183339)
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キーワード | 熱白内障 / 房水対流 / 眼内での熱輸送 / 赤外線波長特異性 |
研究概要 |
1)熱輸送解析のための3次元有色家兎眼球モデル作成:有色家兎の眼球をMRIで撮影し、その画像よりモデル眼を作成した。 2)赤外線B波曝露による眼障害発生有無の検討:有色家兎の瞳孔領中心に1550 nmのレーザーを6分間曝露した。その結果、角膜障害発生閾値は1.0 W/cm2に対して、水晶体障害閾値は2.0 W/cm2であった。この値は前年度に行った赤外線A波(808 nm)の水晶体障害発生閾値である1.2 W/cm2と異なった。同時に行った30分曝露による眼障害発生閾値は異なること(障害発生閾値が下がる)が明らかとなっており、今後、長期曝露の検討が必要である。 3)赤外線B波曝露中の眼内熱輸送動態:有色家兎に赤外線B波(1550 nm)曝露中の眼内での熱輸送動態を、温度により色調を変化させる微細粒子(感温カプセル)を眼内に注入して、大凡の温度分布を測定した。その結果、赤外線B波は角膜で吸収・発熱した熱が房水の対流を生じ、これが水晶体へと熱輸送されることが示された。以上より、赤外線B波による水晶体障害は、赤外白内障発症機序とされるVogt理論(水晶体が赤外線を直接吸収する)、またはGoldmann理論(虹彩が赤外線を吸収し、この熱が水晶体に移行)の何れの理論にも合致しなかった。 前年度に行った赤外線A波曝露による水晶体障害の発生機序は、虹彩が吸収した熱が二次的に水晶体に伝わるというGoldmann理論に従うが、赤外線B波は角膜に吸収された熱が、眼内での対流により二次的に水晶体に輸送されることが明らかとなり、赤外線白内障発症機序は波長により異なることが明らかとなった。今後、赤外線の眼障害に対する周波数特性を検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度に計画した以下の3つの実験計画の達成度について、その項目ごとに記載する。 1)熱輸送解析のための3次元有色家兎眼球モデル作成(目標達成):MRI画像より三次元的なモデル眼が作成できた。 2)赤外線B波曝露による眼障害発生有無の検討(目標達成):我が国の電波防護指針では、曝露時間は6分間平均を採用している。本研究では赤外線の波長は電波のミリ波、テラヘルツ波に近いために、本検討での曝露時間の基準は6分間を採用した。その結果、今年度の研究計画である6分間曝露による眼障害発生閾値は角膜では1.0 W/cm2、水晶体障害閾値は2.0 W/cm2であることが明らかとなった。一方で、予備検討として行った30分曝露では、6分間曝露より重篤な障害が出現し、30分曝露での閾値は、今回の閾値より下がることが予想され、今後、長期ばく露の検討が必要なことが示唆された。 3)赤外線B波曝露中の眼内熱輸送動態(目標達成):赤外線B波曝露による眼障害の発生機序は、眼内での熱輸送解析より、角膜で吸収・発熱した熱が眼内での房水の対流により、水晶体に輸送され、その熱により水晶体混濁が生じることが明確となった。 H25年度に計画していた赤外線A波とB波曝露による眼内での熱輸送に関して、画像解析によりその両者の相違を明確にする予定であったが、赤外線を吸収する部位がA波は虹彩、網膜色素上皮で、B波、C波は角膜であることがすでに明確となっている。赤外線B波とC波の眼障害発生に関する周波数特性の有無についての検討が必要と考える。
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今後の研究の推進方策 |
1)赤外線A波とB波、C波との眼組織での吸収される部位は明白に異なることがすでに明らかとなっているので、B波とC波による眼内での熱輸送の相違を感温カプセルを用いた実験により明らかにする。 2)国際照明委員会の検討課題「赤外線白内障発症機序解明(TC6-49)」の会合がH25年5月に開催されるので、本会議に今年度までの研究データを発表し、今度の計画について、国際的な興味の観点からも検討する。 3)曝露平均時間と眼障害の関連について、6分間曝露による眼障害の閾値は把握されているが、この閾値と30分曝露による眼障害の閾値は異なることが、予備実験で示されつつある。長期曝露実験に関しては、実験のエンドポイントが明確にできないこと、実験動物の麻酔の限界が60分程度であるため、長期曝露や反復曝露実験には限界がある。曝露時間を最長30分または60分程度に固定し、それより短い時間での眼障害発生閾値を求め、これらのデータより、時定数を検討することにより対処を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)実験動物の購入費用 初年度の計画では、本年度は数学的な数値シミュレーション等の実験を想定していたが、長期曝露実験の実施の必要性があるため、実験費用は実験動物の購入費に充当する。 2)感温液晶カプセルの実験は、簡易的な治具上での実験を行ってきたが、赤外線B波、C波での熱輸送の相違を明確にするためには、曝露距離、観察距離等のより精度の高い曝露実験が要求される。実験費用の残金は曝露装置の治具の部品購入に充当する。
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