研究課題/領域番号 |
23510070
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
岡崎 龍史 産業医科大学, 医学部, 講師 (50309960)
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研究分担者 |
大津山 彰 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10194218)
吉田 安宏 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10309958)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 放射線被曝 / T細胞 / p53 / 遺伝的不安定性 / 免疫能低下 |
研究概要 |
本研究の目的は、若年時の放射線被曝によって誘発されるT細胞のp53遺伝子の不安定性によって、T細胞の突然変異率が経時的に増大し、免疫能が低下、さらには発がんに関連するかを検討することにある。これまで、マウスにて若年時放射線被曝後、加齢の過程でリンパ球におけるp53の機能異常を、p53遺伝子配列あるいはepigeneticな観点から解析した報告は少なかったが、今回までにも様々なデータを示すことが出来た。p53遺伝子の存在する11番染色体の転座率が、一時的に低下し加齢により増加したことは、p53遺伝子そのものの異常を示唆するものである。これまでに、マウスp53遺伝子のメチル化に対してメチル化特異的PCR(MSP)は確立されていなかったが、今回8週齢マウスと122週齢マウスを用いてシークエンスをしてCpG legionを見つけ、プライマーを作製し、MSPを確立に成功した(Mol. Biol. Int., vol. 2011, Article ID 938435, 4 pages, 2011)。これにより加齢あるいは若年時放射線被曝によるメチル化の動態を明らかにすることが出来た。またタンパクレベルで若年時放射線被曝後加齢によりp53発現が減少したことを解明することが出来た。リンパ球の増殖能が若年時放射線被曝後加齢により減少することが認められ、免疫力低下に関与しているのではないかと示唆された。制御性T細胞(Treg細胞)が若年時放射線被曝後老齢期で増加していることは、がん化に関与していることも示唆される。腫瘍免疫の観点から、T細胞の異常は免疫能低下や発がんに関与すると考えた。担がん状態あるいは原爆被爆者でTreg細胞の増加を認めているが、今回の結果は整合性があると考える。また、これら全ての結果を踏まえ、若年時被曝による免疫能低下解析にこのマウスモデルは有用なものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p53(+/+)マウス及びp53(+/-)マウスにおける11番染色体の転座率も同様に8週齢照射後に増加した転座率は、一時的に減少し晩発的に再上昇した。p53遺伝子の存在する11番染色体の転座率の増加は、p53遺伝子の機能異常に関わるものと示唆された。ともに8週齢照射群で、p53(+/+)マウスでは72週齢、p53(+/-)マウスでは24週齢及び56週齢でp53遺伝子のメチル化は増加していた。p53遺伝子配列異常は、p53(+/-)マウスの2匹から選別したCD3-CD4+細胞のみにおいて、intron 7にヘテロな突然変異を認めた。アポトーシス活性は、8週齢照射群で、p53(+/+)マウスでは72週齢、p53(+/-)マウスでは56週齢で低下することを報告したが、今回活性型p53タンパクはアポトーシス活性と同じような低下していた。以上の結果から、p53タンパクの発現の低下は、染色体異常、p53遺伝子のメチル化あるいは遺伝子配列異常によることが原因と考えられ、前回報告したT細胞受容体突然変異率(TCR MF)の増加は異常な細胞をアポトーシスで排除できなくなったという考えを強く示唆するものである。免疫機能として、p53(+/+)マウス8週齢照射で72週齢になった時点で、有意なTreg細胞の増加を認めた。p53(+/-)マウスでは、28週齢照射及び40週齢照射した群では、56週齢になった時点でTreg細胞の増加を認めなかった。p53(+/-)マウス8週齢照射群で56週となった時にTreg細胞が増加している傾向があった。p53(+/+)マウスにおける脾臓細胞の増殖能は、加齢と共に減少していった。また8週齢照射群は非照射群に比べてさらに加齢と共に減少していた。原爆被爆者においても免疫力の低下がいわれているが、Treg細胞及び脾臓細胞増殖能低下はマウスモデルとして整合性のある結果である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、若年時の放射線被曝によって誘発されるT細胞のp53遺伝子の不安定性によって、T細胞の突然変異率が経時的に増大し、免疫能が低下、さらには発がんに関連するかを検討することにある。p53遺伝子はDNA損傷細胞の修復とアポトーシスによる排除に関連しているが、若年時放射線被曝の後加齢とともに、このような機能を果たさなくなるため、突然変異率が増加すると思われる。腫瘍免疫の観点から、T細胞の異常は免疫能低下の一因であり、ひいては発がんに関与するのではないかと考えた。昨年度は、p53遺伝子の解析はかなり進んだ。今年度は、免疫機能の解析として、p53(+/+)マウス及びp53(+/-)マウスを用いて、8週齢にてγ線3Gy照射し、遅延的な突然変異のみられ始めた時期(p53(+/+)マウスでは60週齢、p53(+/-)マウスでは40週齢)の前後において、骨髄におけるリンパ球の細胞数および細胞周期、脾臓細胞(特にT細胞)の増殖能およびTregの発現状況、T細胞におけるNF-κBの発現等を解析する。さらにTreg発現に関与しているTGF-βやIL-2の発現を解析し、免疫能低下機構について検討する。これまで解剖時に採血を行い、血清を確保していた。次年度は、血清における炎症因子であるTNF-αやIL6の測定を試みる。また、8週齢のp53(+/-)マウスに3Gy照射した時の方が、p53(+/+)マウスに照射した時よりも早く遅延型突然変異がみられたので、今年度はp53(+/-)マウスを用いて25週齢及び40週齢にても照射し、56週齢のおけるp53タンパクの発現の動態、p53遺伝子配列あるいはメチル化を解析することにより、照射時年齢の違いによるp53遺伝子自体の不安定性について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
p53(-/-)マウスをC57BLマウスと交配することによりp53(+/-)を作製する。また、これらのマウスは、受精卵として保存してあるので、解凍し受精卵の移植を行い、p53 遺伝子のタイピングを行った後実験に供する。移植の技術は確立している。マウス維持のために、受精卵移植用の試薬やレシピエントマウス(ICR マウス)及び採卵用マウス(C57BL/6J)の購入、マウスの飼育費等が必要となる。8週齢にて照射し、各臓器の摘出は、p53(+/+)マウスでは40週齢および72週齢、p53(+/-)マウスでは24週齢および56週齢とし、次の解析項目をそれぞれ週齢で行う。新たな実験系として、p53(+/-)マウスでは25週齢及び40週齢にて照射し、p53(+/-)マウスでは56週齢で解剖を行い、照射週齢の違いによる老齢期での影響の違いを検討する。脾臓細胞からCD4+細胞を分離し、フローサイトメーターによりCD4+CD25+FoxP3+細胞を、ゲルシフトアッセイにより32Pを用いてNF-κBの活性化を解析する。p53(+/+)マウスにおいては40週齢照射群及び60週齢照射群、並びにp53(+/-)マウスにおいては8週齢照射群のデータが無いので補充する。CD4+細胞を分離し、その48時間後の培養上清中のTGF-β及びIL2をELISA法にて解析する。これまで解剖時に採血を行い、血清を確保していた。次年度は、血清における炎症因子であるTNF-αやIL6の測定を試みる。屠殺2時間前に3Gy照射し脾臓を照摘出し、タンパクを抽出する。p53、活性型p53、MDM2およびp21の抗体を用いて、Western blot法によりタンパクの経時的変化を解析するメチル化用と非メチル化用プライマーを用いて、脾臓から抽出したgenomic DNAをBisulfite処理し、メチル化特異的PCRを行う。
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