研究課題/領域番号 |
23510070
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
岡崎 龍史 産業医科大学, 医学部, 講師 (50309960)
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研究分担者 |
大津山 彰 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10194218)
吉田 安宏 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10309958)
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キーワード | 若年時被曝 / T細胞 / p53 / 遺伝子不安定性 / 免疫能低下 |
研究概要 |
本研究の目的は、若年時の放射線被曝によって誘発されるT細胞のp53遺伝子の不安定性によって、T細胞の突然変異率が経時的に増大し、免疫能が低下、さらには発がんに関連するかを検討することにある。p53遺伝子はDNA損傷細胞の修復とアポトーシスによる排除に関連しているが、若年時放射線被曝の後加齢とともに、このような機能を果たさなくなるため、突然変異率が増加すると思われる。平成23年度は、若年時被曝による晩発影響はp53遺伝子あるいはepigeneticな変化によるp53の異常が引き起こすことを証明できた。p53遺伝子の存在する11番染色体の転座率が、一時的に低下し加齢により増加したこと、p53遺伝子のメチル化の増加、活性型p53タンパクの発現の低下、遺伝子配列のへテロな変異(p53(+/-)マウスのみ)、p53(+/+)マウスにおけるTregの増加及び脾臓細胞増殖能の低下を確認した。 平成24年度は照射週齢の違いによるp53への晩発影響を示すことができた。p53(+/-)マウスを用いて、28週齢と40週齢に照射し、TCR MFを経時的に測定するとともに、56週になった時点でp53を解析した。アポトーシス数や活性型p53タンパクの発現は40週齢照射群で最も低下していた。p53アレルの減少はみられなかった。p53遺伝子のメチル化は40週齢照射群の方が28週齢照射群よりも多くみられた。8週齢照射群のデータと比較すると、8週齢照射群が、アポトーシス数、活性型p53タンパクの発現及びp53アレルの最も減少しており、p53遺伝子のメチル化は最も多かった。原爆被爆者において、若年時被曝の方が発がんリスクが増加する。今回の研究では、加齢と放射線によりさらに加齢が進むとp53遺伝子の異常を確認することができ、若年時に被曝した方が、老年期により影響が大きいことを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28週齢で照射した群のTCR MFは32週齢でピークとなり、40週齢以降では対照群よりは約2倍のレベルまでしか下がらなかった。40週齢で照射した群は、50週齢までピークレベルのままであり、60週齢で減少するも、比較的高いレベルであった。56週齢において、非照射群に対して、照射群の方がアポトーシス数は有意に減少していた。また、40週照射のほうが28週照射よりもアポトーシス数がさらに有意に減少していた。以前8週齢で照射したマウスの56週齢におけるアポトーシスのデータを加えると約6%であり、最も減少していた。56週齢におけるp53、p53 ser15、p21タンパクの発現量は、全てにおいて非照射群が最も高く、次いで28週齢照射群が高く、40週齢照射群が最も低かった。このうちp53 ser15の非照射群と28週齢照射群との間でのみ有意差はみられなかった。以前8週齢で照射したマウスの56週齢におけるこれらタンパク量のデータを加えると、いずれも発現量は0.2以下で最も減少していた。p53のメチル化は8週齢照射群と40週齢照射群において最も高い頻度で起っていた。また、28週齢照射群でも増加傾向がみられた。p53(+/-)マウスのp53アレルは8週齢照射群においてのみ非照射群との有意な差が認められた。また、28週齢照射群及び40週齢照射群と非照射群の間には有意な差は認められなかったが、28週齢照射群で減少している傾向がみられた。 今回の結果からすると、8週齢で照射された群が56週齢で最も大きな晩発的影響があったと思われる。40週齢照射群は、元々の加齢による機能の低下に加えて放射線の影響が晩発的に大きな影響をもたらすと考えられた。若年時被曝の晩発影響がp53遺伝子の様々な異常によりp53遺伝子発現の異常を引き起こしたことを証明できたのは有意義であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究目的の一つ目は、放射線の晩発影響において炎症が関与するかどうかを解析することにある。放射線被曝によって急性期にも炎症は誘発されるが、それが長期的に残るために様々な疾患を引き起こす可能性が考えられる。例えば心筋梗塞は長期の炎症の結果起こると考えられている。また照射時期を変えることによって、老齢期になった時の影響は異なるかどうか解析する。照射時期は若年期、中年期及び壮年期をマウスで想定し、照射する。炎症所見を解析には、リンパ球、その培養液あるいは血液におけるTGF-β、IL2、IL-6、TNFα及びNFκBなどを解析していく予定である。 また今回新たな課題として、放射線による影響をメタボローム解析にて行う。メタボロームは組織に含まれる代謝中間体、ホルモン、シグナル分子、二次代謝産物などを含む生体中の全ての小分子の代謝産物であり、放射線による影響を解析していく上で、バイオマーカーを発見できる可能性があると考える。現にアルツハイマーでは診断基準となる代謝物がみつかっている。予備的実験では、被曝直後のメタボローム解析の変化が、長期影響に与える可能性を示唆した。また長期的影響を解析する上でも、メタボローム解析が役に立つ可能性があると考えている。また当大学で継代維持しているp53遺伝子壊変マウスを用いることにより、放射線影響にp53遺伝子がメタボロームに与える影響を解析し、より深いメカニズムを検討することができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
p53(+/+)、p53(+/-)及びp53(-/-)マウスの継代維持は引き続き行う。当大学RI センター所有の137Csγセルにてγ線3Gy(0.81Gy/min)を全身照射する(照射群)。p53(+/+)マウスは2、8、10、20、30、40及び60週齢で照射し72週齢で解析、p53(+/-)マウスでは8、20及び40週齢に照射し、56週齢で解析を行う。 CD4+細胞を分離し、その48時間後の培養上清中のTGF-β及びIL2をELISA法にて解析する。マウス解剖時に採血をし、血漿及び血球に分離する。血漿はELISA法にて、血球からはRNAを精製しcDNAを作成しRT-PCR法にてIL-6、TNFα及びNF-κBなどの炎症性サイトカインを解析する。血液量が0.3ml程度確保できそうであれば、血球計算を外部(モノリス株式会社)に依頼して解析する。白血球やリンパ球数も重要な炎症の指標になる。外注で簡単に安価にできるので、今回新たに計画した。 今回新たにメタボローム解析を計画した。マウスの両大腿骨並びに下腿骨より骨髄を採取し、メタボローム解析は外部(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社)に依頼して解析する。メタボローム解析は解糖系など基礎代謝の解析あるが、放射線影響のバイオマーカーを発見できる可能性があり、次の研究に繋がるものと考えられる。 p53(+/+)マウス及びp53(+/-)マウスを用いているので、Tregや炎症性サイトカインの発現に両者で違いが認められたらp53の関与が考えられる。
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