研究課題/領域番号 |
23510072
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
岩崎 俊晴 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80375576)
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研究分担者 |
鯉淵 典之 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80234681)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アストロサイト / アクチン重合化 / 脱ヨード活性 / 甲状腺ホルモン / 環境化学物質 |
研究概要 |
1.初代培養細胞を用いた解析:細胞レベルで発達期脳に対する環境化学物質の影響を解析するため,rat小脳初代培養細胞を用いてPurkinje細胞樹状突起の伸展に対する影響を解析し,PBDEにより樹状突起の進展の抑制,4-NPにより伸展の促進反応があることが分かった。また,小脳プルキンエ細胞に変異甲状線ホルモン受容体(TR;Mf-1)を発現するマウスでは樹状突起の進展の抑制があることが分かった。2:rat小脳初代培養細胞を用いた顆粒細胞の神経突起の伸展に対する影響では,PBDEで進展が抑制され,4-NPにより進展が促進された。これらの結果はレポータージーンアッセイ及びプルキンエ細胞樹状突起進展に対する影響と一致した結果であった。アストロサイトは小脳の発達,機能,恒常性維持,栄養,T4からT3の変換,細胞骨格の形成,細胞の維持,防御など様々な現象に関与する。この機序はgenomic及びnon-genomic actionが組み合わされて解析されてきた。そこで,様々な側面からアストロサイトに対する影響を解析した。方法1:細胞死の検討:環境化学物質により細胞死が起きないか確認する。方法2:actin polymeryzationの解析:アストロサイトの形態及び運動に関与するactinには線状のF-actinと粒子状のG-actinが存在するが,T4はF-actinの割合を増加させる(actin polymerization)。この反応はTHのnon-genomic actionと考えられている。方法3:甲状腺ホルモン脱ヨード活性(D2活性)に対する影響;T4はD2活性を抑制し,リポ多糖(LPS)は活性化した。方法4:Mf-1マウスはヘテロ型では影響はほとんどなく,ホモ型で小脳発達に対する影響が大きいことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境化学物質の他,グラム陰性菌の外膜構成要素であるリポ多糖(LPS)による影響を解析した。(1) rat小脳初代培養細胞を用いたPurkinje細胞樹状突起の進展に対する影響:野生型の系に加え, Mf-1マウス(点変異を持つTRbeta1-G345R を小脳Purkinje 細胞に特異的に発現させたマウス)における系を確立した。また,GFPマウスにおける樹状突起の進展を確認した。 (2) rat小脳初代培養細胞を用いた顆粒細胞に対する影響:4-NPにより神経突起が進展することが確認された。(3) アストロサイトにおける環境化学物質の影響;主にC6細胞を用いて解析を行った。(a) 細胞死の検討:用いた物質の濃度により細胞死の程度が異なることが分かり,細胞死の起こらない濃度を用いた。(b) actin polymeryzationの解析:T4はF-actinの割合を増加させ(actin polymerization), LPSによりアクチンの脱重合化が起こることが分かった。(c) 脱ヨウ素化酵素(deiodinase2;D2)活性の解析:T4により抑制され,LPSにより活性化された。(d)ラットアストロサイト初代培養の系を確立し,アクチン重合化アッセイ及びD2活性を測定した。(4) 甲状腺機能低下動物に対する影響:(a)抗甲状腺剤を投与し,中程度の甲状腺機能低下状態を作り,4-NPを投与したところ,Rotarodテストには影響なく,小脳分子細胞層の肥厚を認めた。(b) TH標的遺伝子の発現に対する影響:半定量的 RT-PCR法により,BDNFの発現が抑制されることが分かった。(b) 小脳の発達に対する影響:免疫組織化学法を用いて解析しMf-1ホモ型のみ小脳発達の遅延を認めた。(c) 小脳機能に対する影響:行動解析;Rotarodを行ったところ, ホモ型のみ小脳失調を認めた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)初代培養細胞を用いた解析:Mf-1マウスを用いた系が確立したため,この系を用いて甲状腺機能低下状態における環境化学物質の影響を解析する。(2) 顆粒細胞の系ではラットの系は確立したもののマウスの系は確立していない。野生型に加え,Mf-1マウスにおける系を確立する。(3)アストロサイトについてもラットの系はできたが,マウスの系は確立していない。Mf-1マウスではPurkinje細胞に発現する変異TRbetaにより様々な組織学的影響がPurkinje細胞のみならず,周辺の細胞にも及んでいいるのでその機序を解明する有効な方法であると期待される。また,Mf-1マウスの他にスタグラーマウスという変異RORを発現するマウスがいるが,このマウスでも甲状腺機能低下症状を呈する。Homoは生後3週程度で死亡してしまうが,Heteroではほとんど組織学的な変化を示さないが,環境化学物質に対する感受性の点では低下している可能性があるため,解析を行いたい。(変異RORによるTH標的遺伝子の発現が低下すること及び,変異RORがTRを介する転写を抑制することについては既に報告済み)。(4) ヒト胎児期脳より同定したbrain-derived repression molecule (B-ReM)の解析:ヒト胎児脳からRXRをベイトにSos-Ras Yeast Two-hybrid法により同定したB-ReMの解析を行う。B-ReMは365アミノ酸から構成され,全身の組織に発現し,3つの核内ホルモン受容体結合配列(LXXLL motif)を持つ。低用量でリガンド,コファクターの有無に関係なく転写を抑制する転写抑制因子であることが分かっている。このタンパクについて脳発達期における機能を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)初代培養系:ラット及びマウス初代培養を用いたPurkinje 細胞系,顆粒細胞系,アストロサイト系の解析を引き続き行う。環境化学物質の種類を増やして同様の解析を行う。甲状腺機能低下動物の組織を用いた系もMf-1及びスタグラーマウスのサンプルを用いて引き続き確立を目指す。また,環境化学物質の感受性に関する取組としてこれらの培養系に環境化学物質を添加して解析する。初代培養系は動物の系統維持費に加え,細胞培養系の消耗品を購入する。また,LPSの系ではMAPキナーゼによる系の活性化が報告されているが,その機序について解析する。(2) Mf-1マウスの解析を引き続き行う。このための系統維持費を計上する。平成23年度に得た結果のサンプル数を増やし,確認する。半定量的RT-PCR法によりTHの標的遺伝子の発現を解析する。極端に発現が変わる遺伝子についてはプロモーター領域を解析し新たな発現制御機構について解析する予定。シナプス形成に重要なスパインの形成についてゴルジ染色を用いて解析を行う予定。できたら,スライス標本を用いて電気生理学的にも解析したい。以上の解析のため試薬・消耗品を計上する。 (3)4-NPを用いた解析:TH標的遺伝子の発現解析を行う。また,行動解析を行い,組織学的所見と一致するか解析を加える。ラットの飼育費に加え,試薬・消耗品を計上する。(4) ヒト胎児期脳より同定したB-ReMの解析:発達期における発現をmRNA及びタンパクレベルで解析する。他の抑制系の転写因子及び転写関連因子との相互作用についても解析を行う予定。RNAi法による発現を抑制した影響及び,過剰発現させた影響について解析を行う予定。クロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いてTRとの相互作用を細胞及びin vivo ChIP法を用いて解析する。これら解析のための試薬・消耗品に使用する。
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