研究概要 |
[目的] 環境化学物質による甲状腺ホルモン系へのかく乱作用は比較的最近明らかになり注目されるようになってきたが、in vivo影響については未だ不明である。胎生期、新生児期での、甲状腺ホルモンのかく乱は、形態形成異常や中枢神経系の発達障害を引き起こす重大なリスクであり、それに関与する因子や毒性メカニズムを明らかにする必要がある。本研究では、下垂体-甲状腺-肝臓軸の中で特に肝臓に注目し、まずそこでの内分泌かく乱指標となる遺伝子群を同定し、in vivo影響を定量的に解析する。その上で、ヨード環境による影響の違いを明らかにする。 [方法] 雄のF344ラットを用い、生後1, 3, 5日にトリヨードサイロニン(T3)を、0.04~100μg/kg体重で投与し、8週齢で肝臓を摘出してtotal RNAを抽出した。ジーンチップによるcDNAマイクロアレイ解析により、無処置群とT3群との間で、網羅的な発現比較し、発現変動のある遺伝子同定を行った。同定された遺伝子について、全群で定量測定を行った。また、血中T3, T4, TSHの測定をRIAで行った。 [成果] ジーンチップ解析により、 T3の新生仔暴露の発現影響が、成体期まで残る遺伝子としてUGT2他7つの遺伝子が同定され、その発現の投与量依存性も示された。血中のT3, T4, TSHレベルには有意な変化は見られなかった。 [考察] 昨年度研究では、アジレンドのcDNAマイクロアレイにより同様の検索を行ったが、十分な定量的再現性が得られなかった。今回、改良した実験プロトコルにより、目的としていた指標遺伝子がリストできた。発現影響は、血中ホルモン値への影響が出ないレベルで見いだされており、新生仔期の低用量の甲状腺ホルモン作用により、長期的影響がみられることが示唆された。
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