研究課題/領域番号 |
23510077
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高瀬 稔 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80226779)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | testis-ovum / frog / sex reversal / sex differentiation / gonad |
研究概要 |
両生類のトノサマガエルおよびツチガエル、ヌマガエルなどの野外個体では精巣卵が観察される。本研究では、環境化学物質の精巣卵形成に対する影響を解析することを目的としている。両生類では性ホルモンにより性転換が誘導されることがある。その性転換タイプが異なる3種の両生類(雄へ性転換しやすいトノサマガエルおよび雌へ性転換しやすいネッタイツメガエル、雄へも雌へも性転換しやすい広島県産ツチガエル)を用いて本研究を行った。平成23年度はエストラジオールベンゾエイト(EB)およびビスフェノールA(BPA)、ノニルフェノール(NP)の暴露による精巣卵形成の有無を組織学的に解析し、精巣卵形成機構を解析するためのモデル両生類の選定および暴露条件の検討を行った。終濃度が10 nMになるようにそれぞれの化学物質を加えた飼育水を用いて、精巣または卵巣への性分化がすでに完了している変態完了期の個体を1.5ヶ月間飼育した。飼育後生殖腺を取り出し、作成した組織切片をヘマトキシリン染色後に検鏡して、精巣卵の有無を調べた。その結果、BPAおよびNPを暴露したツチガエルでのみ精巣卵を持つ個体が観察された。次に、投与条件を変えてネッタイツメガエルおよびトノサマガエルへの暴露実験を行ったところ、トノサマガエル変態完了個体では、終濃度100 nMを用いても精巣卵は観察されなかったが、終濃度10 nMのBPAおよびNPを2-3ヶ月間暴露したところ、精巣卵が観察された。さらに、ツチガエルおよびトノサマガエルの幼生(ステージX)にBPAまたはNPの暴露を行ったところ、精巣卵形成が観察された。いずれの処理においてもEB暴露では精巣卵は観察されなかった。以上の結果から、精巣卵は暴露後数ヶ月以内に形成されることも考えられた。また、成熟後の精巣卵の有無を調べるために、BPAおよびNPを暴露した個体の一部を継続飼育中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エストロゲン様作用により内分泌かく乱作用を持つと考えられている環境化学物質としてビスフェノールA(BPA)およびノニルフェノール(NP)が知られている。また、エストラジオールベンゾエイト(EB)は強いエストロゲン作用を持つことが知られている。平成23年度は、トノサマガエルおよびネッタイツメガエル、ツチガエルを用いて、BPAおよびNP、EB暴露による精巣卵形成作用を解析するためのモデル両生類の選定および効果的な暴露条件の探索を主な目的としている。その結果、ネッタイツメガエルでは精巣卵形成は観察されなかったが、トノサマガエルおよびツチガエルでは、ほぼ同様に精巣卵が観察された。暴露に用いた化学物質に関しては、EB暴露では精巣卵は観察されなかったが、BPAおよびNPの暴露では同程度に精巣卵形成が誘導された。また、投与時期に関しては、幼生期から変態開始期までの暴露および変態完了期から数ヶ月間の暴露に関して、共に精巣卵が観察された。従って、トノサマガエルまたはツチガエルをモデル両生類として、10 nMのBPAまたはNPを幼生期から変態完了後数ヶ月まで暴露することにより、精巣卵は有効に誘導されると考えられる。また、精巣卵出現時期の解析も目的としていた。周年繁殖可能であるネッタイツメガエルでは精巣卵が観察されず、繁殖時期が限られるトノサマガエルおよびツチガエルにおいて精巣卵が観察されたことから、予備的な知見ではあるが、暴露開始後数ヶ月以内には精巣卵が形成されることが明らかになった。さらに、暴露個体では成熟後にも精巣卵が観察されるのか否かを調べるために、一部の暴露個体を継続飼育している。以上より、23年度の目的はほぼ達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は環境化学物質による精巣卵形成機構を解析するために、精巣卵形成過程における遺伝子発現について解析する予定である。平成24年度では、10 nMのビスフェノールA(BPA)またはノニルフェノール(NP)を含んだ飼育水を用いてトノサマガエルまたはツチガエルの幼生期から変態完了後数ヶ月まで暴露し、経時的に生殖腺を取り出す。対照群には溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)を用いる。取り出した一部の生殖腺をブアン固定し、組織学的解析により精巣卵形成時期を解析する。また、残りの生殖腺をRNA安定液に保存し、精巣卵形成が観察された時期の組織から抽出したRNAを用いてディファレンシャル・ディスプレイ法または次世代シークエンサーにより遺伝子発現を解析し、実験群と対照群の間で発現に差のある遺伝子を調べることにより、BPAまたはNP作用の下流にある遺伝子を探索する。 平成23年度の解析結果から、EB暴露では精巣卵が観察されなかったことからBPAまたはNPの作用はエストロゲン作用とは異なることが考えられる。そこで、平成25年度では、平成24年度に探索された遺伝子の中で、EB暴露により発現に影響を受けない遺伝子を選定する。そのために、EBを用いてBPAまたはNPと同じ暴露実験を行い、暴露個体から生殖腺を取り出す。取り出した生殖腺からRNAを抽出し、リアルタイムPCR法により遺伝子発現を解析する。最後に、BPAまたはNPに影響され、EBに影響を受けない発現を示す遺伝子の中で、精巣卵および精巣卵を囲む細胞において発現している遺伝子をin situハイブリダイゼーション法により解析し、精巣卵形成関連遺伝子の候補とする。また、平成23年度から継続飼育している暴露個体における精巣卵の有無を組織学的に解析し、野外両生類の成熟個体に見られる精巣卵が未成熟期の環境化学物質暴露による可能性を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、環境化学物質暴露後の遺伝子発現を解析する。また、前年度および今年度に得られた研究成果に関して、学会発表および専門誌での論文発表を予定している。従って各費目に関して以下のように使用する計画である。1.消耗品に関しては、分子生物学的解析や組織学的解析を行うために、PCR装置、多くのキットおよび薬品、ディスポーザブルの実験器具、ガラス器具等に使用予定である。また、両生類の飼育も行うために、飼育ケース、餌等にも使用予定である。2.旅費に関しては、国内学会で発表するための交通費および宿泊費に使用予定である。3.その他に関しては、専門誌に研究成果を発表するための英文校閲料および論文別刷代に使用予定である。
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