研究課題
平成23年度は、性ホルモン投与により誘導される性転換のタイプ(①雌雄どちらにも性転換 ②雌から雄に性転換 ③雄から雌に性転換)が異なる3種の両生類の中で、ツチガエルおよびトノサマガエルの幼生および変態完了個体をビスフェノールA(BPA)またはノニルフェノール(NP)に曝露すると精巣卵が形成されることを明らかにし、有効な投与時期および投与量を調べた。平成24年度は、まず精巣および卵巣への化学物質影響を広く調べ、モデル実験両生類として1種をさらに選んだ。10 nM のBPAまたはNPをツチガエル幼生およびトノサマガエル幼生のステージXからステージXXまで曝露した後に生殖腺を組織学的に解析したところ、両種共に精巣卵形成に加えて、生殖細胞の減少および精細管の形成不全が観察された。さらにツチガエルでは、卵巣の発達抑制や退化が観察された。従って、化学物質に対してより感受性の高いツチガエルをモデル実験両生類として以後の実験を行った。まず化学物質を幼生に曝露した時の生殖腺への影響を経時的に観察した。ステージXのツチガエル幼生にBPAを曝露し、15および30,60日後の生殖腺を組織学的に解析した結果、曝露後30日目の精巣において生殖細胞の核に異常が観察され、60日目の精巣では精巣卵が観察された。最後に、ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いて、BPA曝露後に特異的に発現変化する遺伝子の探索を行った。ステージXのツチガエル幼生へのBPA曝露後30日目および60日目の幼生から精巣を取り出し、全RNAを抽出した。対照群には溶媒を投与した。ファーストストランドcDNAを合成した後、3種類の下流プライマーと24種類の上流プライマーの全ての組み合わせを用いたPCRを行った。PCR産物を電気泳動し、曝露群において濃かった25本のバンドを確認し、BPA感受性遺伝子の候補としてそれらPCR産物を回収した。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、BPA感受性遺伝子の単離を目的とした。精巣卵形成に対する化学物質の影響を調べた平成23年度の解析結果では、ツチガエルとトノサマガエル共に精巣卵形成が観察され、感受性も似ていた。そこで平成24年度では、まず精巣卵以外の生殖腺への影響に着目して解析し、化学物質に広く感受性を持つツチガエルをモデル実験両生類として選定し、以後の実験に用いた。前年度に調べた精巣卵形成に有効な曝露条件を用いてBPAをツチガエル幼生に曝露し、経時的に精巣を組織学的に解析することにより、精巣卵形成関連遺伝子を探索するための解析時期を決めた。次に、精巣卵が見られる時期およびその前の時期での精巣における遺伝子発現をディファレンシャル・ディスプレイ法により解析し、BPAを曝露した精巣において発現が高くなる25個の遺伝子を回収することができた。さらに、暴露個体では成熟後にも精巣卵が観察されるのか否かを調べるために、一部の暴露個体を継続飼育している。回収されたPCR産物のシークエンス解析およびリアルタイムPCRによる解析はこれからであるが、共にすでに確立されたルーティンな方法であり、候補となるBPA感受性遺伝子を得ることができたことから、平成24年度においても研究はほぼ順調に進んでいると考えている。
平成25年度では、まず前年度に得られたBPA感受性候補遺伝子の塩基配列を解析する。次に、その塩基配列情報を基に設定したプライマーを用いたリアルタイムPCR解析により、BPA曝露による遺伝子発現の増加を定量的に確かめる。性分化後のエストロゲン曝露により精巣卵は形成されないことから、BPAによる精巣卵形成はエストロゲン様作用とは異なる事が考えられる。そこで、BPA感受性遺伝子の中からエストロゲン作用を受けない遺伝子を選び出すために、エストロゲンを曝露した幼生の精巣におけるBPA感受性遺伝子の発現をリアルタイムPCR法により調べ、発現変化が見られないBPA感受性遺伝子をエストロゲン様作用に依存しない精巣卵形成関連遺伝子の候補として選定する。また、in situハイブリダイゼーション法によりその候補遺伝子を発現している細胞を同定し、精巣卵形成に関わる細胞間相互作用を類推する。
今後の研究の推進方策を遂行するため、およびこれまで得られた研究成果について学会発表および専門誌での論文発表を行うため、平成25年度の各費目について以下のように使用する計画である。1.消耗品に関しては、分子生物学的解析や組織学的解析を行うためのキットおよび薬品、ディスポーザブルの実験器具、ガラス器具等の購入に使用する。また、両生類幼生の飼育を行うための飼育ケース、餌等の購入にも使用する。2.旅費に関しては、学会で発表するための交通費および宿泊費に使用する。3.その他に関しては、専門誌に研究成果を発表するための英文校閲料および論文別刷代に使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
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