両生類精巣卵形成に対する環境化学物質の影響について解析した。最初に、ツチガエルおよびトノサマガエル、ネッタイツメガエルの生殖腺分化幼生または変態完了個体に対して、ビスフェノールA(BPA)およびノニルフェノール(NP)、エストラジオールベンゾエイト(EB)を曝露した。その結果、生殖腺未分化幼生へのエストロゲン曝露による性転換の程度がネッタイツメガエルよりも弱いツチガエルおよびトノサマガエルに対して、EBよりもエストロゲン作用が弱いBPAまたはNPを曝露(10 nM以上)することにより精巣卵が形成された。次に、精巣卵以外の生殖腺異常も顕著に観察されたツチガエル生殖腺分化幼生に対して60日間の曝露を行うと精巣卵が形成されたことから、60日間曝露した精巣において発現変化する遺伝子をディファレンシャル・ディスプレイ法により解析し、PCR産物を回収した。最終年度では、シークエンス解析を行い、ビテロゲニンA1遺伝子配列と相同性を持つPCR産物を確認した。また、ほ乳類ではERRgamma(ERRg)がBPAの受容体と考えられており、ネッタイツメガエルでは精巣卵形成に関与する候補遺伝子として42Sp50遺伝子が2013年に報告されている。そこで、最終年度ではツチガエルのERRgおよび42Sp50をコードする遺伝子を単離し、リアルタイムPCR法による発現解析を行った。その結果、BPAおよびNPの曝露においてのみERRg遺伝子発現が促進される傾向が見られた。従って、環境化学物質の非エストロゲン様作用による両生類精巣卵形成にビテロゲニンA1およびERRgが関与している可能性が考えられた。さらに最終年度では、精巣卵を持つ精巣を用いた人工媒精により得られた変態完了個体では精巣卵が観察されなかったことから、野外個体に見られる精巣卵は遺伝的背景よりも化学物質影響をより強く反映している可能性が考えられた。
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