研究課題/領域番号 |
23510078
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
小山 保夫 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 教授 (80214229)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 亜鉛 / 細胞毒性 / 酸化ストレス |
研究概要 |
1.酸化ストレス下での細胞内亜鉛イオン遊離について 細胞内チオールを化学的に枯渇させるエチルマレイン酸を利用して細胞内亜鉛イオン濃度と細胞内チオール量の変化の相関を調べたところ、二者間には負の相関が認められた。また、細胞内亜鉛イオン濃度を塩化亜鉛添加で上昇させたところ、細胞内チオール量増加が認められた。これらの間には正相関があった。酸化ストレス下で起こる細胞内亜鉛イオン遊離はチオール産生を促すことが示唆された。2.細胞外亜鉛イオンの細胞膜透過について 冷温下では塩化亜鉛添加による細胞内亜鉛イオン濃度上昇は起こらず、正常温度に戻すと細胞内への亜鉛イオン流入が認められた。この亜鉛イオンの細胞膜透過の基本的な性質はカドミウムイオンと同じで二個金属イオンとの拮抗、膜電位、pH等に影響を受けることが明らかになった。また、局所麻酔薬のテトラカインが亜鉛イオンの膜輸送を抑制することを見出した。3.細胞内亜鉛イオン濃度の上昇による細胞毒性について 亜鉛イオンのイオノフォアのジンクピリチオンを用いて細胞に亜鉛イオンを負荷した場合の細胞毒性を検討した。亜鉛イオンを過剰に負荷した細胞では酸化ストレスに対する脆弱性の亢進が認められた。亜鉛イオンの過剰負荷ではそれ自体で酸化ストレスが亢進することが明らかになった。4.化学物質の細胞毒性への細胞内亜鉛イオン濃度上昇 環境汚染物質でもあるトリクロサンを用いて、1~3の現象と関連付けられる作用(亜鉛イオン濃度上昇と酸化ストレス)の有無を検討した。トリクロサン処理による細胞内亜鉛イオン濃度と細胞内チオール量の変化には負の相関が認められた。5.これら化学物質の細胞毒性を評価する上で亜鉛イオンの関与を検討する意義が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.申請書の23年度研究計画は細胞膜亜鉛イオン透過と細胞内亜鉛イオン遊離のメカニズム解明の二点であった。これらの実験予定の90%以上は期間内に終了し、論文として投稿している。しかし、細胞膜の亜鉛イオン輸送体の特定、細胞内亜鉛イオン遊離の画像化については十分な成果が得られているとは言えない。2.24年度研究計画の一部を繰り上げて実施した。これにより細胞へ亜鉛イオンを過剰に負荷した場合の細胞毒性メカニズムの一部や化学物質(実験ではトリクロサン)の細胞毒性への亜鉛イオンの関与など、24年度の実験をスムーズに進める為のデータが得られた。これらの結果も論文として投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
1.23年度の研究計画の不足分である「細胞膜亜鉛イオン輸送体の特定」と「細胞内亜鉛イオン遊離の画像化」(細胞部位の特定と細胞内チオール分布との関連)を行う。前者については、これまでのデータから1つではないことが予想される。2.24年度の当初計画には入っていないが、細胞膜亜鉛イオン輸送体の薬理学的特性も明らかにする。テトラカインは抑制するがリドカインは抑制しない、イットリウムイオン(三価陽イオン)は抑制する等、多様な実験結果が得られている。この実験は輸送体の特定に寄与する。3.23年度の研究で亜鉛イオンの過剰負荷による細胞毒性と化学物質の細胞毒性への亜鉛イオンの関与が明らかになったので、24年度の計画の(1)亜鉛イオンによる細胞毒性増強(細胞死促進)メカニズムの解明、(2)亜鉛イオンにより細胞毒性増強が観察される化学物質の種類(イミダゾール系は増強するが、アゾール系は増強しない)とメカニズムを明らかにする。また、有機化学研究者の協力を得て、化学構造的に亜鉛イオンと錯体を形成する脂溶性化合物でも実験を進めており、研究の新たな展開が期待できる。4.25年度に特定化学物質を中心にそれらの細胞毒性への亜鉛イオンの関与を検討することになっているが、これも一部前倒しして行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.繰越研究費が生じた状況 23年度の繰越の多くは蛍光プローブ等の消耗品を購入しなかった為に発生したものである。22年度末に科研費以外で購入した蛍光プローブ・一般試薬・細胞培養消耗品の買い置きがあり、それらを利用した為に生じた繰越である。2.24年度の請求研究費とあわせた使用計画 繰越額の約40%(25万円)を物品費に、約25%(15万円)を旅費(学会発表)に、残額を英文校正経費として「その他」に配分して支出する。(1)物品費:蛍光プローブ、一般試薬、実験消耗品(ディスポ器具)で75万5千円、(2)旅費:日本薬理学会の地方会と年会、日本トキシコロジー学会の年会の計3回で22万5千円、(3)その他:現時点では年間7~8編の論文投稿が可能でそれらの英文校正経費として33万円を予定している。
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