研究概要 |
1.いくつかの化学物質の細胞毒性を塩化亜鉛が増強することを示し、Zn2+の毒性科学への関与が推定された。ところが、TPEN(細胞内Zn2+キレート剤)で化学物質の細胞毒性が減弱するケースと増強するケースが観察され、細胞内Zn2+の細胞毒性への関与は一律でないことが示唆された。 2.多くの環境汚染物質それ自体が細胞内Zn2+濃度上昇を起こすことを明らかにしたが、この場合、細胞内Zn2+濃度の上昇が必ずしも細胞毒性に繋がらない。これらのZn2+濃度の上昇の多くは環境汚染物質による非タンパクチオール量の低下(Zn2+の遊離)が原因である。そして、Zn2+濃度上昇が持続すると細胞内非タンパクチオール量の回復が見られるという細胞保護的な現象が観察される。よって、細胞内Zn2+濃度上昇は細胞保護的にも細胞傷害的にも働くと考えられる。都市河川水の汚染物質である抗菌剤のトリクロサンやトリクロカルバンでも同様な作用を確認した(Tamura et al., 2011; Morita et al., 2012)。これらは細胞内非タンパクチオール絡みの細胞内Zn2+濃度上昇の機序を示唆している。ところが、細胞内Zn2+それ自体は細胞内非タンパクチオール量を増加させた(Kinazaki et al.,2011)。また、細胞内非タンパクチオール量低下を伴う細胞内Zn2+濃度上昇が観察された細胞では時間経過とともにチオール量の回復が起こり、それはZn2+キレート剤で抑制された(Fukunaga et al., 2013)。 3.Zn2+キレート作用を有する脂溶性化学物質(Zn2+との解離定数が大きい場合)では理論と異なる細胞内Zn2+濃度上昇と他の化学物質の細胞毒性増強を起こした。金属イオンと錯体を形成する化学物質は多いので、脂溶性物質の場合、それらの毒性作用が金属イオン特異性に起こる可能性がある。
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