研究課題
更年期障害女性に対するエストロゲン補充療法代表薬プレマリンの長期服用により乳がんなどのリスクが上昇する。プレマリンに含まれる不飽和型エストロゲン(エクインエストロゲン)は生体内で代謝活性化され、DNAとの結合体(4-OHEN-DNA付加体)を形成する。しかし、4-OHEN-DNA付加体と発がんとの関連についてはあまり知られていない。本研究では、4-OHEN-DNA付加体のヒト細胞における修復能について、同付加体特異的モノクローナル抗体を用いて検討した。その結果、ヒト乳がん細胞(MCF7)は紫外線で誘発される2種類のピリミジン2量体やアセチルアミノフルオレン(AAF)-DNA付加体をヌクレオチド除去修復機構(NER)によりゲノムDNAから正常に修復できるのに対し、活性型エクインエストロゲン(4-OHEN、4-OHEQ)で誘発した4-OHEN-DNA付加体に対しては24時間後でもほとんど修復できないことがわかった。また、正常ヒト細胞はNER欠損細胞に比べ紫外線やAAFに対して高い抵抗性を示すのに対し、4-OHENに対しては両細胞間の感受性の差はほぼ見られなくなった。これは4-OHEN-DNA 付加体の難修復性の結果と矛盾しない。次に、DNA損傷特異抗体を修復蛋白に見立て、4-OHEN-DNA付加体を含む4種類のDNA損傷とそれら特異抗体の結合に対するヒストンの競合阻害率を検討した結果、4-OHEN-DNA付加体を標的にした時に最大の阻害率が観察された。この結果はDNA結合蛋白ヒストンがNER修復蛋白の4-OHEN-DNA付加体への結合を阻害できることを示唆している。以上の結果は、プレマリンが体内で治りにくい特殊なDNA損傷を形成することが突然変異や発がんリスクの上昇を導く可能性を示唆する。
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