研究課題/領域番号 |
23510082
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊英 帝京大学, 薬学部, 准教授 (60256055)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | ヒ素化合物 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 / 細胞毒性 |
研究概要 |
本年度は、研究計画の主目的である「ヒ素化合物による、ヒストン修飾の多様性」についての検討を中心に行った。数種のヒ素化合物によるヒストン修飾作用を予備的に調べたところ、3価無機ヒ素(iAs(III))のヒストン修飾作用が顕著であった。そこで、まずiAs(III)によるヒストン修飾の多様性について詳細な検討を行った。 ヒストンH3のN末端側の修飾部位に焦点をあて、iAs(III)によるリン酸化修飾(Thr(3)、Ser(10)、Thr(11)、Ser(28))、メチル化修飾(Lys(4)、Lys(9)、Lys(27))、アセチル化修飾(Lys(9)、Lys(14)、Lys(18)、Lys(27))、メチル化/リン酸化修飾(Lys(9)/Ser(10))、アセチル化/リン酸化修飾(Lys(9)/Ser(10))について検討した。その結果、iAs(III)によるヒストンH3の修飾は、3つのパターンに分類された。(1)低濃度~高濃度のiAs(III)で顕著に修飾:Ser(10)-リン酸化、Thr(11)-リン酸化。(2)低濃度~高濃度のiAs(III)短時間処理で顕著に修飾:Lys(9)-ジメチル化、Lys(9)-アセチル化、Lys(9)/Ser(10)-トリメチル/リン酸化。(3)高濃度のiAs(III)長時間処理で修飾:Lys(4)-モノメチル化、Lys(9)-モノメチル化、Lys(9)-トリメチル化、Lys(27)-モノメチル化。 iAs(III)によるヒルトンH3の修飾は、Lys(9)、Ser(10)、Thr(11)の連続した3つのアミノ酸で顕著に認められ、ここがホットスポットであると考えられた。また、処理濃度、処理時間によって、修飾部位、修飾形に違いが見られ、これらの修飾の役割、意義について解明されれば、これまでにない有益な情報が得られると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主目的であり、本年度の第1課題である「ヒ素化合物による、ヒストン修飾の多様性を明らかにする」については、研究実績の概要に記したように、順調に進行している。しかしながら、本年度行う予定であった第2課題である「各種のヒ素化合物により誘発されるヒストン修飾機構を明らかにする」については十分な検討が行えていないのが現状である。しかしながら、次年度以降の課題を進めるための準備として、ヒストンH3の修飾部位(Ser(10))に変異を入れた遺伝子を導入した細胞株の確立を進めており、この点に関しては計画を先取りして進行している。 以上のように、本研究の主目的についてはおおむね順調に進行しているが、全体的に見るとやや遅れているのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
3価無機ヒ素(iAs(III))以外のヒ素化合物についても、ヒストン修飾の多様性について検討する予定ではあるが、本年度明らかにされたiAs(III)によるヒストン修飾の多様性は非常に興味が持たれたので、iAs(III)によるヒストン修飾メカニズムの詳細、およびその意義についての検討を優先的に進めたい。 まず、修飾されたヒストンH3の細胞内局在について、核内のどの部分にどのような修飾を受けたヒストンH3が局在しているかを、本研究室所有の蛍光顕微鏡、および本学共通機器の共焦点レーザー顕微鏡を用いて確認したい。さらに、修飾が顕著であった、(1)の修飾:Ser(10)-リン酸化、Thr(11)-リン酸化、および(2)の修飾:Lys(9)-ジメチル化、Lys(9)-アセチル化、Lys(9)/Ser(10)-トリメチル/リン酸化、に関与している酵素の検討を行い、iAs(III)によるヒストン修飾メカニズムの詳細を明らかにしたい。 また、ヒストンH3のSer(10)をAlaに置き換えた遺伝子を導入した細胞のクローン化を現在進めているが、本年度の研究成果よりLys(9)、Thr(11)の修飾にも非常に興味がもたれた。そこで、これらのアミノ酸を他のアミノ酸に置き換えた変異ヒストンH3遺伝子を導入した細胞の確立もあわせて行いたい。そして、これらの変異遺伝子を導入した細胞を用い、ヒ素化合物により誘発される遺伝子発現異常、細胞毒性、細胞分裂異常へのエピジェネティクな制御の関与について検討を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を遂行するにあたり、必要な設備、機器類は現有のものが利用可能であり、必要な研究経費は主に消耗品である。 研究費は、細胞培養に必要な血清、培地、培養器具類、ならびに免疫染色、イムノブロットに必要な抗体、ヒストン修飾酵素の阻害剤をはじめとする各種試薬類の購入に充てる予定である。
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