研究概要 |
本研究では、新たに提案した血中サイロキシン(T4)濃度低下作用機構におけるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体を解析するために、以下の検討を行った。C57BL/6系マウス及びDBA/2系マウスに、TCDD様作用とフェノバルビタール様作用を併せ持つ混合タイプのPCB、2,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB118)を投与し、5日後に血清中甲状腺ホルモン濃度及び肝臓の薬物代謝酵素活性を測定した。また、その時に[125I]T4を静脈内投与し、胆汁中[125I]T4のグルクロン酸抱合体の排泄量、血中[125I]T4とトランスサイレチン(TTR)との結合率、[125I]T4の組織分布量を測定した。 両マウスにCB118を投与したとき、血清中総T4、遊離T4及び総T3濃度はいずれも有意に低下した。一方、肝臓のT4のグルクロン酸抱合酵素活性、UGT1a及びUGT1a1の発現量及び胆汁中[125I]T4のグルクロン酸抱合体の排泄量は、C57BL/6系マウスでは有意に増加したが、DBA/2系マウスでは変化しなかった。また、C57BL/6系マウスにCB118を投与すると、[125I]T4とTTRとの結合率は低下し、アルブミン、サイロキシン結合グロブリンとの結合率は増加した。一方、DBA/2系マウスではこれらの変化は認められなかった。さらに、肝臓の[125I]T4のKp値(血清-肝臓間分配係数)、肝臓の[125I]T4の分布量及び肝臓単位重量当たりの[125I]T4の分布量は、両マウスにCB118の投与により顕著に増加した。また、CB118を投与したとき、両マウスの肝臓重量は有意に増加した。 以上、CB118による血清中T4濃度の低下は、主として肝臓へのT4の蓄積によって起こり、胆汁中へのT4のグルクロン酸抱合体の排泄も一部関与していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TCDDに高感受性なC57BL/6系マウス、また低感受性なDBA/2系マウス、トランスサイレチン(TTR)ノックアウトマウス、UGT1欠損ラット(Gunnラット)などに、AhRリガンドの3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB126;co-planar PCB)、CARリガンドの2,2',4,4',5,5'-hexachlorobiphenyl (CB153;non-planar PCB)、AhR及びCARリガンドの2,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB118; mono-ortho PCB)及びこれらを成分として含み「油症」の原因となったKanechlor-500 (KC500)を投与し、血中甲状腺ホルモン濃度、甲状腺ホルモンの代謝に関わる代謝酵素活性、血中T4と甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合率、甲状腺ホルモンの体内動態を薬物動態学的及び分子生物学的にin vivoとex vivoで検討し、PCB投与による血中T4濃度の低下は、主として肝臓へのT4の移行(蓄積)によって起こること、また胆汁中へのT4のグルクロン酸抱合体の排泄も一部関与していることを明らかにし、血清中T4濃度の低下メカニズムの要因を解明しつつある。また、肝臓へのT4の移行(蓄積)は、肝肥大によること、TTRが重要な役割を果たしていること、また甲状腺ホルモントランスポーターの関与があることを示唆している。
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