本研究では微生物の機能を利用して無機ヒ素をアルセノベタイン(AB)に変換するヒ素無毒化システムの構築を目的とし、申請者が土壌より分離したヒ素メチル化細菌のAB産生機構の解明と変換効率の向上を行った。 前年度新たに分離したヒ素メチル化細菌Cellulomonas sp. K63株の酵素学的特性を検討した結果、これまで申請者が保有していたヒ素メチル化細菌Bacillus cereus R2株と同程度のヒ素メチル化能を有しており、K63株の方が高濃度のヒ素に対して効果的にメチル化を行うことができた。さらにABの産生においては、それぞれの最適条件下で比較すると産生したトリメチルヒ素化合物(TMC)の割合はほぼ同じであったが、その中のABの割合はK63株の方が2倍程度高かった。両菌株の菌体内抽出液を調製しヒ素のメチル化実験を行った結果、両菌株で最適条件での違いはなかった。培養時でのヒ素のメチル化に比べ、菌体内抽出液を用いた場合ではメチル化有機ヒ素化合物の割合は半分以下であったが、反応速度は約18倍になった。それぞれの反応液にヒ酸還元能を有する菌株からの菌体内抽出液を添加すると、メチル化有機ヒ素化合物の割合は無添加時と比べて変化はなかったが、TMCの割合が1.6倍以上になった。 今回の研究により、これまで保有していたヒ素メチル化細菌よりABへの変換効率が高い菌株を分離することができ、ヒ素の無害化プロセスへの応用の可能性が高まった。さらに、ヒ酸還元能を有する菌株と組み合わせることで、TMCへの変換効率の向上が図れた。また、細菌によるヒ素メチル化反応には無機ヒ素の細胞内への取り込みなどが深く影響しているため、実用化には菌体そのものではなく菌体内抽出液や酵素を用いた方が良いことが分かった。これらの成果は、微生物を利用したヒ素の無毒化による自然還元技術の確立に繋がるものであった。
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