腸球菌は,ふん便指標細菌であり,下水や河川,沿岸域に広く分布している。この腸球菌のなかに,バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococcus,VRE)が出現し,特定の患者や病院施設に限らず,水環境中においても存在している可能性がある。しかしながら,水環境を対象としたVREの報告例は極めて少ない.そこで本研究では,下水中に存在する腸球菌のバンコマイシンおよびその他の抗生物質に対する感受性について検討した。下水中に存在する腸球菌の中からバンコマイシンに耐性を有する菌株をスクリーニングするため,バンコマイシンを各濃度(0,2,4,32μg/mL)となるように調整した腸球菌選択培地(mEI培地)を用いて下水から腸球菌を単離した。通常のmEI培地から単離した菌株は,E. faecium,E. faecalisをはじめとする腸球菌であった.一方,VCM濃度が32 μg/mLのmEI培地からは,PediococcusやLeuconostocといったVCMに自然耐性を有する菌株が占有した。このことから, 薬剤耐性腸球菌を単離するには4 μg/mL以下のVCM濃度をmEI培地に添加するスクリーニング法が適当であることがわかった。単離した菌株について,バンコマイシンを含む抗生物質7剤の薬剤感受性試験(MIC試験)を行った結果,バンコマイシンに対して中度耐性と多剤薬剤耐性の腸球菌が確認され,下水においても薬剤耐性腸球菌の存在が確認された。また,通常のmEI培地(0mg/L)から単離した菌株の中には,VCMを除く6薬剤に対して耐性を示す菌株が検出された。我が国の水環境において,バンコマイシンのほか,重要な抗生物質に対して,耐性を有する腸球菌が分布していることが明らかとなった。
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