研究課題/領域番号 |
23510115
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
藤原 隆司 埼玉大学, 科学分析支援センター, 准教授 (70280914)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 構造・機能材料 / ナノ材料 / 無機化学 / 有機化学 / 錯体化学 |
研究概要 |
本研究は「求電子、求核試薬のいずれとも反応し得る」特異な反応性を有し、電気化学的に非常に興味深い硫黄配位双性イオン(Twitter ion)型カルベニウムジチオカルボキシラートを配位子として、無機・有機ハイブリッドナノクラスターを合成し、配位子-金属、金属-金属間の相互作用によって「協奏的多電子レドックス機能」構築を目指して研究を行っている。本年度は、無機・有機ハイブリッドナノクラスターのコアとして注目されている金や銀イオンについてまず合成を行った。ターゲットとなる金属イオンとしてはナノクラスターのコアとして注目されている金や銀を中心に、種々の金属イオンを用いた。配位子は基本的にエチル置換体を用いたが、置換基による構造の影響を調べるため、チル、プロピル置換体の合成も行った。得られた錯体は組成の分析や単結晶が得られたものについては構造解析を行った。さらに種々の対イオンを用いて結晶化を試み、いくつかの錯体については単結晶を得た。また、無機・有機ハイブリッドナノクラスターの反応性について検討するため、得られた錯体と配位した双性イオン型配位子への付加反応について調べるため、配位子単体の反応性や単座配位子の非配位硫黄原への化学的修飾を試みた。ある錯体を合成する過程において、配位子が反応したと考えられる化合物が単離できた。これは金属錯体を形成することによって起こったことが示唆され、触媒反応への応用が期待される結果であった。 これらの得られた錯体の構造、反応性を詳細に調べるため、量子化学計算ソフトウエアによる電子状態や構造の解明を行うため、金属錯体の異性体などの構造安定性などの計算も行い、基礎的な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、配位子-金属、金属-金属間の相互作用によって「協奏的多電子レドックス機能」構築を目指して、以下のような観点で研究を行っている。(1)双性イオン型配位子の無機・有機ハイブリッドナノクラスターの合成(2)無機・有機ハイブリッドナノクラスターの分子および結晶構造の解明(3)無機・有機ハイブリッドナノクラスターのレドックス機能とその制御。 本年度の成果は上記の観点に基づいて研究を行った結果であり、金属錯体の合成とその性質、結晶中の構造解析、配位子の反応性などといった、ほぼ計画に沿った研究を行うことができた。いくつかの配位子で、金属イオンと配位子が異なる組成の化合物が得られた。このことは配位子の構造によって化合物組成が変化することを示しており、さらに対イオンの種類も影響していると考えららレ宇。また結晶内における化合物の詰まりかた(パッキング)も配位子や対イオンの種類によって変化することがわかった。これらの知見は本研究の目的とも合致している。さらに研究を進めていく過程で、配位子が反応したと考えられる化合物が単離できた。これは金属錯体を形成することによる配位子の反応性が変化したため起こったことが示唆され、触媒反応への応用が期待される結果であり、予想外の結果とはいえ新たな観点からの研究を進めていくアイディアとなった。また、量子化学計算による構造や電子状態に関する研究成果も、今後進めていくクラスター錯体の電子状態の解析のための基礎的な知見を得ることができた。 今年度に得られた知見はいくつかの専門誌に投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
ナノマテリアルとしての機能性:各種の分光学・電気化学的測定により、ナノサイズクラスター金属錯体の電子状態を明らかにする。例えば、酸化還元挙動は溶液内と固体(塗布電極)のサイクリックボルタンメトリーで調べる。また電解生成物の紫外可視吸収の測定などを行い、電子状態や溶存状態の構造について考察する。 特に、ナノマテリアルとしての機能性の1つとして、単結晶の電気伝導性測定を試みる。合成を検討している金(I)錯体では有機分子によってAu-Au結合を含む一次元鎖構造が絶縁されている構造をしており、電気伝導性を示すことが期待される。さらに、化学修飾されたナノワイヤー錯体についても同様の物性を測定し、化学的修飾がナノサイズクラスター金属錯体の物性、特に電気伝導性の向上が期待されるかを検討し、無機・有機ハイブリッドナノクラスターに高機能性を付加させるための足がかりとする。 また、量子化学計算を用いてナノクラスターの構造や電子状態、光吸収帯の帰属や酸化還元特性の原因を解析する。ナノクラスターの非配位硫黄原子と異種金属イオンとの錯形成:たとえば[Au3(EtL)4](ClO4)3の単座配位子の非配位硫黄原子への錯体形成を試みる。有機反応と同じように金属試薬と反応させることにより、ナノクラスターの周辺硫黄原子に別の硫黄と錯形成しやすい金属イオン(例えば、白金や銀など)を付加させる。反応生成物はクロマト法などで分離し、NMRなどの各種機器分析によって同定し、構造を明らかにする。配位子の硫黄が非配位の状態と比較することで、ナノクラスターの金属イオンに対する反応性を調べ、混合金属の重層ナノ構造など、新しい機能が付与する可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画において、金属試薬類についてはその金属錯体の原料となるものであり、本研究計画に必須のものである。また、有機溶媒類についても反応溶媒、測定溶媒など多岐にわたっての使用が必須であるので、本研究計画の消耗品費においても大きなウエイトを占める。また、実験、測定に必須のガラス器具についても消耗品費として計上した。さらに、得られた化合物の同定のために、NMRスペクトルの測定は欠かせない。そのための測定溶媒となる重水素化溶媒、および試料管を計上した。さらに、同定や物性解析のためにUV-vis吸収スペクトルや発光スペクトルなどを測定するため、光学セルが必要である。加えて、研究計画でも述べたように高圧下での光学特性を測定するために高圧下で使用可能な光学測定用セルを計上した。さらに、化合物の合成・測定時に、空気中の水分・酸素によって不安定な化合物であった場合、不活性ガス気流下での取り扱いが必須であるため、また、電気化学測定では酸素の影響をのぞくために不活性気流下での測定が不可欠である。従ってそのための不活性ガスの購入費用を消耗品に計上した。また、研究成果の発表として秋に開催予定の錯体化学討論会(富山大学)への発表を行うことから、交通運賃、宿泊費用としての旅費や、共同研究先での測定・討論を行うための旅費もあわせて計上の予定である。また、データの整理や実験・測定の補助などのために学生アルバイトを雇用することで、研究の効率的な進行のみならず、教育的観点からも効果的であると思われるので、研究補助のための謝金を計上を計画している。
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