研究課題/領域番号 |
23510115
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
藤原 隆司 埼玉大学, 科学分析支援センター, 准教授 (70280914)
|
キーワード | 構造・機能材料 / ナノ材料 / 無機化学 / 有機化学 / 錯体化学 |
研究概要 |
本研究は「求電子、求核試薬のいずれとも反応し得る」特異な反応性を有し、電気化学的に非常に興味深い硫黄配位双性イオン(Twitter ion)型カルベニウムジチオカルボキシラートを配位子として、無機・有機ハイブリッドナノクラスターを合成し、配位子-金属、金属-金属間の相互作用によって「協奏的多電子レドックス機能」構築を目指して研究を行っている。 本年度は、無機・有機ハイブリッドナノクラスターのコアとして注目されている金や銀イオンを中心に新規配位子との錯体形成を目指して合成を行った。配位子については,これまでのアルキル鎖をもつものに加えて,イミダゾール骨格を有する配位子の合成を試み,いくつかの新規配位子を得ることができた。さらに,この新規配位子と金属イオンを反応させ,組成の分析や単結晶が得られたものについては構造解析を行った。種々の対イオンを用いて結晶化を試み、対イオンの影響についても検討をしている。また、無機・有機ハイブリッドナノクラスターの反応性について検討するため、配位子の反応性や含硫黄配位子が配位した錯体の反応性を検討した。いくつかの錯体については触媒反応への応用が期待される結果が得られている。さらにいくつかの錯体については興味ある構造が得られたため,結晶構造について速報として論文誌に投稿した。これらの錯体の構造や電気化学的性質,分光学的性質を検討するため,量子化学計算ソフトウエアを用いた理論計算についても着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、配位子-金属、金属-金属間の相互作用によって「協奏的多電子レドックス機能」構築を目指して、以下のような観点で研究を行っている。(1)双性イオン型配位子の無機・有機ハイブリッドナノクラスターの合成(2)無機・有機ハイブリッドナノクラ スターの分子および結晶構造の解明(3)無機・有機ハイブリッドナノクラスターのレドックス機能とその制御。 本年度の成果は前年度に引き続き上記の観点に基づいて研究を行った結果である。金属錯体の合成とその性質、結晶中の構造解析、配位子の反応性などといった、ほぼ計画に沿った研究を行うことができた。いくつかの配位子では,結晶化の条件の違いで金属イオンと配位子が異なる組成の化合物が得られた。このことは配位子の構造によって化合物組成が変化することを示しており、さらに対イオンの種類も影響していると考えられる。また結晶内における化合物の詰まりかた(パッキング)も配位子や対イオンの種類によって変化することがわかった。これらの知見は本研究の目的とも合致している。また,配位子が反応したと考えられる化合物が単離できた。これは金属錯体を形成することによる配位子の反応性が変化したため起こったことが示唆され、触媒反応への応用が期待される結果であり、得られた結晶構造については速報として結晶学学術誌に投稿し掲載された。また、いくつかの興味ある錯体の構造についても速報として論文投稿を行った。さらに量子化学計算による構造や電子状態に関する研究成果も、今後進めていくクラスター錯体の電子状態の解析のための基礎的な知見を得ることができた。今年度に得られた知見については専門誌に投稿準備中である。
|
今後の研究の推進方策 |
新たな置換基Rをもつ分子内塩の合成とその錯体の合成:双性イオン型配位子RLの、置換基がさらに多様なものについて合成法を探り、配位子とするために比較的大規模なスケールで合成できるかを調べる。これらの知見は有機化学的にも興味ある結果が得られると期待される。合成が可能となったものについては、それぞれの錯体を合成する。錯体の合成方法については前年度で得られた金、銀錯体の合成方法を参考に行う。さらに単結晶を得て構造解析を行うほか、様々な機器測定により溶液内構造や電子状態を明らかにする。 ナノマテリアルとしての機能性:これらの新しいナノクラスターについても、各種の分光学・電気化学的測定により、電子状態を明らかにする。溶液内と固体でのサイクリックボルタンメトリーから、酸化還元特性を明らかにし、電解生成物の紫外可視吸収の測定などを行い、電子状態や溶存状態の構造についても考察する。また、ナノマテリアルとしての機能性の検討、量子化学計算なども行う。さらに本研究でターゲットとしている金(I)錯体では有機分子によってAu-Au結合を含む一次元鎖構造が絶縁されている構造をしており、電気伝導性を示すことが期待される。また,化学修飾されたナノワイヤー錯体についても同様の物性を測定し、化学的修飾がナノサイズクラスター金属錯体の物性、特に電気伝導性の向上が期待されるかを検討し、無機・有機ハイブリッドナノクラスターに高機能性を付加させるための足がかりとする。 また、量子化学計算を用いてナノクラスターの構造や電子状態、光吸収帯の帰属や酸化還元特性の原因を解析することで,新しい機能が付与する可能性を探る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|