研究課題/領域番号 |
23510116
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
谷 誠治 山口大学, 理工学研究科, 講師 (60197514)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 粘土鉱物 / 光分解 / 電子構造 / 同形置換 / 水和 |
研究概要 |
スメクタイト系粘土鉱物である合成サポナイトには光触媒活性がないとされていた。最近我々は、単層剥離した合成サポナイト存在下において、光照射により分解が促進される有機色素と分解が促進されない有機色素を数例見いだしている。しかしながら、合成サポナイト存在下における有機物の光分解の詳細は明らかにされていない。 今年度は、主に合成サポナイトの電子構造と水和挙動の特徴を明らかにするために、以下の計算化学的研究と光分解実験に取り組んだ。1)電気的に中性なタルクとその四面体シート内部のSi4+をAl3+に置換した粘土鉱物の電子構造を計算し、電子構造に及ぼす同形置換の影響を調べた。その結果、同形置換由来の負電荷は、主に、隣接する酸素原子とケイ素原子に分配されるとともに、同形置換サイトの正電荷がより大きくなり、四面体シート内部での分極が増大していることが明らかとなった。2)粘土鉱物の表面にある酸素原子には、溶媒(水分子)が水素結合できるため、粘土鉱物の電子構造が大きな影響を受けていると考えられる。そこで、粘土鉱物の電子構造に及ぼす水和の影響、粘土鉱物と水和水との間の電荷移動量、および水和水の配向特性を調べるために、単層剥離した2:1型層状ケイ酸塩粘土鉱物の外部表面に多数の水分子を配置させた量子化学計算の実行・解析を継続している。3)光分解が促進されるローダミンBでは、脱エチル化が生じる。そこで、脱エチル化した生成物がさらに光分解するかを検討した結果、合成サポナイト存在下でもエチル基を持たないローダミンBの誘導体(ローダミン110)の分解反応は起こらないことが明らかとなった。これは、ローダミンB中のジエチルアミノ基が光分解反応を促進する化学構造因子の一つであることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
量子化学ソフトウェアのバグと既存計算サーバの故障により、当初計画していた計算の一部を実施できなかった期間があったためである。なお、ソフトウェアのバグと計算サーバの故障に関する問題は既に解決済みであり、H24年度以降の研究実施に支障はない。
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今後の研究の推進方策 |
溶媒効果(水和)を考慮した量子化学計算により、2:1型層状ケイ酸塩粘土鉱物表面における有機色素の吸着挙動を解析するとともに、種々の骨格を有する有機色素の光分解反応実験も継続して実施する。これらの計算及び実験結果に基づいて、光分解が促進される有機色素と促進されない有機色素の粘土鉱物表面への吸着挙動を解析し、有機色素の化学構造因子と吸着挙動との相関を解析する。 有機色素自身のHOMO/LUMOのエネルギー順位や軌道分布および、有機色素の光励起状態に及ぼす水和や粘土鉱物への吸着の影響を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度の予算執行に際して、主に実験補助を依頼する学生を確保できなかったこと、および学会誌投稿料の請求が遅れていることにより、未使用額が生じた。 24年度は、設備備品として量子化学計算結果を菓子化するためのソフトウェアと書籍を、そして、消耗品として試薬、ガラス器具等を購入する予定である。また、今年度2回の成果発表のための旅費と、実験補助のための謝金を計上する。
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