単層剥離した合成サポナイト存在下において、光照射により分解が促進される有機色素と分解が促進されない有機色素が存在することを見出した。本研究課題では、単層剥離した粘土鉱物表面上の有機色素の動的挙動、有機色素-粘土複合体の電子構造、および、有機色素の光化学に関する研究を行った。 過去2年間、量子化学計算により粘土鉱物の電子構造に及ぼす同形置換の影響を調べ、陽イオン交換容量(CEC)の理論値が高くなるにしたがって、そのアニオンサイトに吸着したカチオン性有機分子への電子供与性能が高くなることが分かった。有機色素の光照射実験では、ローダミン110の光分解は起こらないこと、また、アルキルアミノ基を有するスチルバゾリウム誘導体のトランス体からシス体への光異性化反応が促進されることが新たに見出された。 本年度は主に分子動力学計算により、二次元的な粘土表面に吸着した有機色素の動的挙動を調べた。その結果、ローダミンBはそのキサンテン環と粘土表面が平行な状態で吸着し、さらに酸素原子がアニオンサイト付近にある水素原子の近くに存在する頻度が高いこと、一方、スチルバゾリウム誘導体も粘土表面に対して分子平面を平行にして吸着するが、アニオンサイト付近に存在する頻度は他の位置に存在する頻度と同程度であることが明らかとなった。さらに、量子化学計算により、スチルバゾリウム誘導体の異性化反応の活性化エネルギーは一電子還元されることにより著しく低下することが分かった。 本研究課題で得られた結果は、高いCEC値を有する粘土鉱物の二次元表面から光励起したローダミンBやスチルバゾリウム誘導体へ電子移動が起こり、その後、分解反応や異性化反応が生じることを示唆するものであり、耐光性に優れた光機能性有機-粘土コンポジット材料を設計・開発する上で有用な知見である。
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