研究課題/領域番号 |
23510120
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
池本 弘之 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (20262496)
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研究分担者 |
宮永 崇史 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (70209922)
小田 竜樹 金沢大学, 数物科学系, 教授 (30272941)
中村 和磨 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60525236)
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キーワード | ナノ粒子 / 階層性 / XAFS / Raman分光 |
研究概要 |
Teナノ粒子は、サイズが小さくなるにつれて鎖間相互作用が減少し、基本構造であるTe鎖同士の配置に乱れが生じる。すなわち、アモルファス化していると考えている。参照データとしてアモルファスTeの局所構造に関する情報が重要であるが、アモルファスTeの局所構造に関する研究は不十分である。液体窒素温度でアモルファスTeを作製し、温度を保ったままX線吸収微細構造(XAFS)測定を行った。結晶Teに比べるとアモルファスTeは、鎖状構造は残存するが共有結合長が短くなることや、鎖間相互作用が大きく減少することを明らかにした。 Teナノ粒子をはじめ様々なナノ粒子(Bi, Ag, Fe2O3, FeSiPBCuなど)のXAFS研究を行った。また、それに関連して第16回XAFS討論会に出席し、発表や情報収集を行った。 密度汎関数理論に基づく第一原理分子動力学法を用いて、Bi鎖(Bi_n, n=10)のシミュレーション、Seの擬ポテンシャルの構築と結晶中のファン・デル・ワールス(vdW)相互作用の研究を行い次のような知見を得た。Bi鎖の直線的構造から出発して生成する安定形状には、凝集エネルギーが大きいBi_4やBi_5の部分が含まれる。また3回らせん鎖が束ねられて形成しているSe結晶において、凝集エネルギーに対するvdW相互作用の寄与を非経験的手法により評価することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体窒素温度でのその場Teナノ粒子・アモルファスTe作製・XAFS測定を行い、Teナノ粒子・アモルファスTeの局所構造に関する情報を得た。Teナノ粒子とアモルファスTeの局所構造を比較することにより、Teナノ粒子はアモルファスTeと類似の局所構造を有することが明らかになった。 共有結合が強くなることを検証するために、ラマン分光を行った。共有結合の伸縮モードに関連した波数ピークが、高波数側へシフトし共有結合が強くなることを検証した。100cm-1付近にある2つのピークが、ナノ粒子のサイズ変化に伴って強度が逆転することを見いだした。ラマン分光測定で偏光測定を行い第一原理計算と比較した。Teナノ粒子では鎖間相互作用が弱くなっていることが、Raman解析からも明らかになった。 X線吸収微細構造(XAFS)から配位数に関する構造情報を得るために、光電子の平均自由行程をクラスターに最適化し、様々なナノ構造に対して平均自由行程のクラスター粒径依存性を理論的に解析した。 Teと同様に階層性を有する同族元素のSe、層状的階層的構造をもつと考えられるクラスターとして興味深い元素であるBiについて研究した。密度汎関数理論に基づく第一原理分子動力学法を用いて、Bi鎖やSeの分子間相互作用の研究を行った。Bi鎖の直線的構造から出発して生成する安定形状について検討した。また3回らせん鎖が束ねられて形成しているSe結晶において、凝集エネルギーに対する分子間相互作用の寄与を非経験的手法により評価することに成功した。 第一原理乱雑位相近似計算に基づく光学スペクトル計算プログラムを作成した。とくに、低次元金属のスペクトルに対応可能なコードを作成した。作成コードを用いて、代表的な有機化合物・擬一次元金属 (TMTSF)2PF6 の反射率を計算したところ、実験を再現することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
Teナノ粒子の特徴をより明確にするには、表面原子と内部原子の割合が同程度の粒子について検討することが重要である。試料をスパッタリングによりイオン液体に蒸着することにより、非常に小さなナノ粒子を生成できる。そこで、Teナノ粒子のこの手法により作製し、構造と物性の両面から検討を行う。 Te鎖の鎖内共有結合の伸縮モード(140cm-1)から、Teナノ粒子における鎖状分子の伸縮の力定数を求め、XAFSのEinsteinモデル解析の結果と比較検討する。偏光測定をさらに詳細に行って、Raman測定からも階層構造について検討を行う。 Teナノ粒子の光学特性、ラマン分光スペクトル、構造パラメーターなどを第一原理計算でシミュレーションを行う。Teナノ粒子の構造と物性に関して、実験と理論の両面から検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
Teナノ粒子の特質をより明確にするには、数千個のTe原子からなる粒子を作製することが有効である。イオン液体にスパッタリングにより蒸着すると作製できることが分かり、試料作製装置の製作に取り組み始めた。試料作製装置には専門知識が必要であるため、情報収集や打合せに時間を要した。 イオン液体にTeをスパッタリングにより蒸着する試料作製装置を製作する。得られた試料を用いて、XAFSなどの構造解析、光透過率などの物性を調べる。
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