本研究は「熱応答性高分子を被覆した金ナノ粒子の融合現象」に関して,その原理を化学的に解明し,さらにその原理に基づいて生体関連分子の計測プローブの開発を目指すものである。当然のことながら,この原理に基づいて設計,開発されたナノプローブには,これまでにない機能の発現が期待される。以下,その成果の概要を記す。 (1)金ナノ粒子の融合現象の機構解明 本科研費においては,融合現象の発現機構を解明することを目的に,溶液の加熱温度,加熱時間,そして阻害物質の種類と濃度を制御パラメータとして,金ナノ粒子の生成状況を調べた。ここでは粒子観察には透過型電子顕微鏡(TEM)を,プラズモンバンドに由来する吸収スペクトルの測定には吸光光度計,流体力学的直径の測定には動的光散乱測定装置を,そしてナノ粒子の粒子間相互作用の観察には小角X線散乱を用いた。その結果,熱応答性高分子の相転移により,金ナノ粒子が近接することで,両者が融合することを見出した。この時,チオール基を持つsulfhydryl compoundは,チオール基を介して金ナノ粒子と結合し金ナノ粒子を安定化させることで,ナノ粒子の融合を阻害した。 (2)高感度ナノプローブの開発 金ナノ粒子の融合現象に基づいて,粒子径が80-100 nm程度の熱応答性高分子で被覆された金ナノ粒子を調製した。免疫反応のモデルとして,用いる熱応答性高分子にビオチン基を導入することにより,アビジンセンサーを創製した。このアビジンセンサーのこのセンサーのアビジンに対する感度は数百n mol/Lであった。さらに,感度を向上させるために金ナノ粒子の代わりに蛍光分子を組み込んだ熱応答性蛍光プローブを創製した。このプローブのアビジンの応答範囲を10^-11 mol/Lから10^8 mol/Lとする感度向上と応答範囲の拡大を達成することができた。
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