研究課題/領域番号 |
23510126
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
安部 隆 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00333857)
|
キーワード | 水晶振動子微小天秤 / MEMS / 単一微粒子 / 単一細胞 / 極限センシング |
研究概要 |
前年度までに開発した水晶MEMS加工技術で中央部の感度を高くなるよう設計したQCMについて、実際にそのQCMに微粒子を付着させてその応答性を調べた。MEMS加工したQCMの振幅分布は、シミュレーションでは、未加工のものと比較し半値幅のさらに狭いガウス分布を示すようになり高感度化が期待される。 本年度の研究遂行では、微粒子固定法の決定に想定外の時間を要した。予算の制限で、最有力な方法である高価なレーザートラッピングのような任意の微粒子を固定する技術を使用できない。そこで、本研究室に既にある半導体リソグラィ工程の設備を利用してリソグラフィでフォトレジスト製の微粒子モデルを作製し、QCM電極上での微粒子モデルの配置による応答性の違いを評価することにした。 その結果、通常型のQCMにおいては、電極中央部の質量負荷(100um径,厚さ2um)への応答はSauerbreyの式から理論的に予測される値と比較して1.5倍の値を得た。その応答は、電極外側に向かうにつれて急減衰した。MEMS加工したQCMにおいては、同質量負荷に対して3.5倍の値を得た。その感度は約3 pg/Hzとなった。以上に述べたように、薄膜モデルでの理論値と異なること実験的に証明しさらにその補正係数を得た。これは学術的に大きな進歩である。また、MEMS加工で中央部の質量応答感度を増幅することの実証にも成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の研究では、微粒子モデルの固定法の決定に手間取った。しかし、学術上で意味のある成果を得ることができた。遅れの主な原因は、センサ加工、測定システムおよび評価まで、総合的な技術を駆使して研究を貫徹する人材を育てるのが困難な点である。加工装置も壊れて自分らで修理を繰り返すことが多く使えるセンサの供給にも予想外に手間取ったのも課題であった。以上の課題は、人材育成と経験の蓄積の問題であり、研究室がスタートアップして間もないために不可避であるが解決していく課題と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に示した研究成果は、今年1月に得ることができた。単一細胞レベルの極限センシングに必要な感度は、重さを量るだけであれば、1 ngが認識できればよいが、応用先である薬剤の取り込みなどのセンシングには、小さな質量が検出できるほどよい。現在、約3 pg/ Hzの感度を得ることに成功しており、1 Hzの安定性が得れれば肝細胞の質量の3000分の1に相当する質量を検出できるレベルに到達している。このような感度を有するセンサで、実際に検出を実演するためには以下の評価が必要である。 1 液中でのサブHz台の安定性(最適な測定セルの構築):2 付着状態の違う微粒子での評価(現在のモデルは固着、超音波の伝播特性に依存):3 2も含んで微粒子モデルへの応答を系統的に調べること 1については、それを実施するための観察機器を3月に購入した。現在、最適な測定セルの絞り込みを学生3名で分担して各々違う手法で検討している。 2については、ブロッキング剤で表面処理した後に部分的に電気的に改質し電極上に細胞モデルとして使用するリポソームを固定する技術をこれから検討する予定である。器用さが要求されるので人材に依存し期間内に完了するかどうか分からないが挑戦していく。電解部をフォトリドグラフィで絞りブロッキング剤ごと改質すれば可能だと考える。 3については、地味であるが学術上は最も重要なデータである。QCMを単一の微粒子(微小片)の極限センシングに使用する場合の基礎となる研究であるためである。3をまとめて、本科研費の主要成果として発表することも重要であると考える。ただし、対外発表は報告書までに間に合うか微妙である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の方針に示した研究項目1-3を時間の許す限り実施する。 1-2に関わる測定システムに使用する観察機器を3月に購入した(支払いは4月になったので次年度の計上となる)。この観察機器を用いて微小微粒子を固定して溶液中で観察測定するセルを開発する。この関連の研究費として、センサとセルの材料費と作製費を計上した。また、細胞モデルの材料(脂質類)、それを付着制御するための試薬(ブロッキング剤)さらにはそれらを保管する冷凍庫の購入費用を計上する(研究室が立ち上がり中で試薬保管の冷凍庫が必要)。学術的には、主目的の単一細胞レベルのセンシングが興味深いが、産業界では、単一微粒子(破片)のセンシングのノウハウに関心が多く、そのデータを要求されることが多くなってきた。そこで、3の単一微粒子のセンシングの基礎的なデータのまとめを急ぐこととする。その評価用センサの作製費も計上する予定である。
|