最終年度では、微細加工した水晶振動子マイクロバランス(MEMS-QCM)上への微粒子の質量負荷についての線形性の有無の確認と当初計画の人工細胞モデルであるリポソームを吸着・測定するための微小流路と上記QCMからなる計測システムについても作製し評価を行った。 MEMS-QCMの中央部への単一微粒子モデルを用いた質量負荷試験では、微細加工によって応答が増幅されて、Sauerbreyの式で求められる値の3倍以上となることを前年度に実証している。本年度は、質量負荷に対する線形性について詳細に調べた。興味深いことに、想定される細胞質量(1ng前後)よりも質量を含む低負荷の領域では線形性の応答が得られたが、高負荷の領域では質量負荷が増加するにつれて応答性が上がった後に低下する結果となった。その原因として、密度と剛性の違いによる厚み滑り振動の伝播の位相ずれが考えられるが有限要素法での解析との比較が必要である。この現象は、材料、サイズや形状に依存することが予想され興味深い。 微小流路からなる計測システムの構築については、流体存在下で30 pg(=標準偏差の3倍)の検出能を持つように発振回路の調整に成功した。それを用いて、リポソームの接着材料となる自己組織化膜の吸着プロセスを測定可能になったが、リポソームのモニタリングについては電気化学的に局所的に固定する手法の試験と同時に現在進行中である。上記の研究成果については線形応答性を含めてまとめて発表予定である。 以上に述べたように、当初目的の単一細胞レベルの質量検出能を持つMEMS-QCMシステムの準備を終えることに成功した。今後、本システムを用いた単一細胞の「体重変化」の計測などへの研究展開が期待される。
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