研究課題/領域番号 |
23510127
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
末 信一朗 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90206376)
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研究分担者 |
里村 武範 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50412317)
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キーワード | バイオデバイス / ナノデバイス / バイオセンサ / バイオ電池 |
研究概要 |
酵素を触媒とするバイオ電池は、安全性が高い、軽量化・小型化が容易であるといった利点から次世代エネルギーとして期待されているものの、電子移動効率や酵素の安定性などの種々の問題から、実用化への道のりは遠いものとされてきた。本プロジェクトは、バイオ、材料、電池、電気化学の各分野の研究者が結集連携することにより、従来困難とされていたバイオ電池に適したバイオデバイス構築を目的として、まず耐熱性PQQ-依存型グルコース脱水素酵素(PQQ-GDH)の高配向固定化法の検討及びその電流特性の検討を行った。酵素分子のN末端へHis-tagを導入し、電極上に電析した銅原子を介して酵素分子を一定方向に配向させた電極を開発した。電極上において酵素分子の配向を高めることにより、約4倍の電流密度の向上に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いたPQQ-GDHは補酵素であるPQQが存在する付近に活性部位が存在すると推測される。そこでGDH分子のN末端にHis-tag(ヘキサヒスチジン配列)を遺伝子工学的手法により導入したHis-PQQ-GDHを設計し、発現・精製を行った。pET-15bを用いてPQQ-GDHのN末側にHis-tagを修飾するためのプラスミドの構築を行った。次に構築したプラスミドを大腸菌に導入し、His-tagが付加されたPQQ-GDH (His-PQQ-GDH)のタンパク質大量発現を行った。その結果、His-PQQ-GDHはHis-tagを修飾していないPQQ-GDHと同様の比活性を示し、His-tagの酵素活性への影響が見られないことを確認した。得られたHis-PQQ-GDHを用いて、バイオ電池のためのアノード電極の構築を試みた。酵素と電極間に配向性を持たせて固定化するために電極表面に銅を電析させ、銅-His-tagのアフィニティを利用した酵素固定化を行った。また、コントロールとして、カーボン電極を酸化処理してカルボキシル基を導入しアミド結合によりPQQ-GDHを固定化した電極を作製した。これらの電極のCVを測定したところHis-PQQ-GDH固定化電極に基質であるグルコースを添加すると、PQQに基づく酸化波が大きく現れた。一方、His-tagを持たないPQQ-GDHを固定化した電極ではグルコースを添加してもPQQの酸化波は見られなかった。ここでは、電極と酵素間で電子の授受を媒介するメディエータとなるPQQは添加していないが、酵素分子に結合するPQQが介在して酵素反応に伴い発生した電子を電極へ受け渡しているものと考えられた。化学結合によるランダムな向きに固定化された酵素電極では、最大電流密度27μA/cm2であったが、配向固定化電極ではその約4倍の電流密度を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では電極上に電析した銅を介してHis- PQQ- GDHを固定化することに成功した。また、本電極では遊離のPQQをメディエータとして添加することなく酵素-電極間の電子授受が確認された。この電子移動効率の増大について、酵素分子の構造解析などによる機構解明が求められる。さらに、電極への分子修飾技術の開発やナノファイバー材料などを検討することによってさらに電流密度を上げる。さらにカソード用エネルギー変換素子としても、アノード同様に超好熱性アーキア由来のPyrobaculum aerophilum Muticopper oxidaseを触媒として用いて酸素を還元するバイオカソード電極の開発を進めている。また併行して、電流密度を大幅に向上させるためナノファイバー電極の開発も行うなどバイオ電池の他の構成要素についても併せて検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
備品費は計上せず、研究遂行に必要な消耗品費や研究成果発表旅費を挙げる。
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