研究課題/領域番号 |
23510128
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小海 文夫 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40345997)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | ケイ素ナノワイヤー / レーザー / 触媒フリー / リチウムイオン電池 |
研究概要 |
ケイ素粉末を成型した固体ターゲットを原料として用い,レーザーパワー密度および雰囲気Arガスの圧力を変化させてレーザー蒸発の実験を行った。得られるケイ素ナノワイヤーを含む堆積物の走査型電子顕微鏡観察による全体の把握やケイ素ナノワイヤーの評価を行った。また,透過型電子顕微鏡による生成物の微細構造の観察を行い,ケイ素ナノワイヤーの収率,長さや直径など求め,生成条件と共に解析した。ケイ素ナノワイヤーの収率は雰囲気Arガスの圧力に大きく依存し,最高で90%まで達すること,長さは4 μmまでで,直径は3から50 nmであった。電子線およびX線回折パターン測定,ラマン散乱分光法を合わせて活用し,アモルファス性,結晶性などの解析も進めた。得られたケイ素ナノワイヤーには,結晶性のものとアモルファス性のものが混在していると結論した。鉄などの金属を含むケイ素ターゲット,二酸化ケイ素を含むケイ素ターゲットを用いた場合およびケイ素と同じ14属に属する元素であるゲルマニウムからの生成物も同様に解析を行い,ケイ素ナノワイヤーの触媒フリー成長機構の解明へと進めた。金属を触媒とする成長も引き起こすことができた。触媒フリーのプロセスでは,溶融状態にあるケイ素ナノ粒子へのひずみの発生からナノワイヤー成長が起こることが示唆された。 ケイ素ナノワイヤーに導電性を付与するために,炭素コーティングの実験も開始した。エタノールを原料とする熱化学気相成長法による炭素コーティングを行うために,装置の製作を行った。炭素コーティングを実施した後,コインセル(ポリエチレンカーボネートなどの液系電解質,リチウム箔,銅箔,高分子膜セパレーター,多孔体セパレーターなどを使用)を組み立て,充放電試験を行い,リチウムイオン電池負極としての特性の評価を始めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは,新規で独創的な触媒フリーケイ素ナノワイヤーの成長を行い, その成長機構を明らかにすることである。ケイ素ナノワイヤー収率,直径や長さなどの制御行うために,特に雰囲気Arガスの圧力を変化させることが有効であることを明らかにできた。溶融しているケイ素粒子へのひずみの発生からナノワイヤー成長が起こる新規な成長機構が示唆されている。得られたケイ素ナノワイヤーの収率も最高で90%と非常に高く,リチウムイオン電池の負極として適用するもう一つの研究の目的のためにも,本レーザー蒸発法は有効な形成方法であると判断できる。また,触媒フリーで形成できることも不純物の影響を考慮する必要がないことから,負極としての適用に際して大きな利点である。得られたケイ素ナノワイヤーには,結晶性のものとアモルファス性のものが混在していると結論したが,今後は1000℃程度までの熱処理による結晶化をはかり,均一性の高い試料形成を達成したいと考えている。ケイ素ナノワイヤーへの導電性の付与とともに,充放電試験をさらに進める予定である。今年度に得られた成果を国内での学会,メキシコでの国際学会で発表することができた。成果をまとめて,英文論文としても投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果を基にして,ケイ素ナノワイヤー成長制御をさらに進め高度化をはかる。 特に,結晶性の向上に注力する。リチウムイオンニ次電池負極として使用するため,直径,長さ,結晶性などの最適化や収率の向上を目ざして,形成条件の検討をさらに進める。電子顕微鏡観察,X線回折パターン,ラマン散乱分光法等により生成したケイ素ナノワイヤーの解析を引き続き行う。ナノワイヤーの成長核形成を明らかにするために,金属触媒が存在する場合やゲルマニウムの場合と比較検討しながら,触媒フリーナノワイヤーの成長の機構の解析をさらに研究する。 スクロースなどの有機物を用いた加熱処理,エタノールなどを原料とする熱化学気相成長法による炭素コーティングの形成制御を引き続き行う。電子顕微鏡により炭素コーティングの状態を観察したり,元素分析,結合状態など解析(X線光電子分光法なども併用)も同時に進め,効果的な炭素コーティング構築を行う。充放電試験において,印加する電圧および電流(密度)を制御し,リチウムイオン挿入・脱離速度などを変化させ特性評価を行う。さらに,液系電解質に加え,ポリマー電解質を用いる検討へと展開する。分子量の異なるポリエチレン酸化物や分岐誘導体等のポリマー系電解質を用いた充放電特性の評価(充放電を行う時の温度などの制御と共に)の予備検討を行う。 レーザー蒸発法による触媒フリーケイ素ナノワイヤー形成の制御や成長機構の解明をさらに進め,結果を取りまとめ,成果の発表を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ケイ素,ゲルマニウム,他の金属などのナノワイヤー成長用の固体原料の材料費,レーザー光照射を制御するための光学部品費,真空用容器部品やアルゴンガスなどの費用など,消耗品に研究費を使用する。また,高性能透過型電子顕微鏡やラマン分光による試料分析と打ち合わせ用の旅費,成果の学会発表用の旅費としても使用する。
|