研究課題/領域番号 |
23510128
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小海 文夫 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40345997)
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キーワード | ケイ素 / ナノワイヤー / リチウムイオン電池 / 負極材料 / レーザー蒸発法 |
研究概要 |
触媒フリーケイ素ナノワイヤー形成制御をさらに進め,形成技術の高度化をはかった。ケイ素および酸化ケイ素粉末を同重量で混合後,圧縮成型した固体ターゲット(ナノワイヤー収量を多くできることが判明)を用いて,0.9 MPaの高圧Arガス中でのレーザー蒸発法によりナノワイヤーを作製した。得られたナノワイヤーの収量はケイ素ターゲットに比べ数倍であり,ナノワイヤーの長さは4 μmまで,直径は3から60 nmであった。X線回折パターン測定,ラマン散乱分光法を活用し,得られたナノワイヤーには,アモルファス性部分と結晶性部分が混在していることを確認した。この試料をリチウムイオン電池負極用材料として重点的に検討することにした。 ナノワイヤーにエタノールを原料とする熱化学気相成長法による炭素コーティングを行い(導電性を付与),導電性を評価した。エタノール流量や加熱温度により,導電性は変化した。得られた導電率は0.6-45.6 S/cmであり,コーティングのない場合に比べ4桁以上改善できた。コインセルを組み立て,充放電試験を行い特性の評価を進めた。充放電容量として,1000mAh/g以上が得られることがわかり,現行の製品の3倍以上の容量である。 ケイ素と同じ14属に属するゲルマニウムおよび錫をレーザー蒸発用の原料として検討した。ゲルマニウムおよび錫単独の原料からはナノワイヤーの生成は見られなかったが,炭素物質混合原料を使用することにより,ナノワイヤー形成が起こることを見出した。ケイ素の場合と同様に,成長は溶融粒子からの触媒フリー成長機構と考えられる。成長プロセスについては,溶融している粒子へのひずみの発生からナノワイヤー成長が起こること,ケイ素,ゲルマニウムおよび錫等の元素に特有な現象であり,溶融粒子が固体になる際の堆積膨張が成長を起こす際の誘導力として働くこと等を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,新規で独創的な触媒フリーケイ素ナノワイヤーの形成を達成し, その成長機構を明らかにすること,リチウムイオン電池負極として適用し高性能化をはかることである。本年度では,ケイ素ナノワイヤー収量の制御行うために,雰囲気Arガス圧力の重要性に加えて,ケイ素および酸化ケイ素粉末を同重量で混合後,圧縮成型した固体ターゲットをレーザー光照射用の原料として使用することが収量増加に非常に有効であることがわかった。得られた収量は従来に比べ数倍であり,非常に高く,本方法はリチウムイオン電池の負極として適用するためにも,有効な形成方法であることを確認できた。また,触媒フリーで形成できることも不純物の影響を考慮する必要がないことから,大きな利点となる。得られたケイ素ナノワイヤーに炭素コーティングを実施し,導電性を評価するとともに,電池としての充放電容量評価を行った。ケイ素ナノワイヤーへの導電性の付与は有効であり,充放電容量は現行の製品に比較して3倍以上の高容量化達成の可能性を明らかにした。ナノワイヤー成長機構の解明という点でも,堆積膨張が成長を起こす引き誘導力である新規な機構が提案できると考えている。学術面でも重要な成果と考えられる。これまで得られた成果の一部を国内での学会で発表することができた。また,成果をまとめた英語論文を投稿し受理された。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までに得られた結果を基にして,ケイ素ナノワイヤー形成制御およびリチウムイオン電池負極としての検討を進め,研究をさらに発展させる。ナノワイヤーの成長核形成を明らかにするために,ゲルマニウムや錫などの金属の場合と比較検討しながら,触媒フリーナノワイヤーの形成機構を解析する。特に,高分解能電子顕微鏡観察,回折パターン,エネルギー損失分光,組成解析などをナノレベルで進める予定である。成長が起こる溶融粒子の冷却された後での観察,ナノワイヤー部のアモルファス状態との比較検討などを中心に行う。 エタノールを原料とする熱化学気相成長法による炭素コーティングの形成制御を引き続き行う。電子顕微鏡により炭素コーティングの状態を観察,元素分析,結合状態など解析(X線光電子分光法なども併用)も同時に進め,さらなる効果的な炭素コーティング構築および導電性付与の制御を検討する。 充放電試験用のナノワイヤー自体に対して,表面酸化の影響があるとか考えられるので,アルカリ溶液などを使用してエッチング処理などを施すこと検討し,さらなる高容量化をはかる。リチウムイオン挿入・脱離速度などを変化させ特性評価を行うと共に,サイクル特性評価などから,ケイ素の欠点とされる堆積膨張収縮の際に起こる劣化の問題などにも取り組み,ナノワイヤーの有効性を明らかにする。さらに液系電解質に加え,ポリマー電解質を用いる検討へと展開する。分子量の異なるポリエチレン酸化物や分岐誘導体等のポリマー系電解質を用いた充放電特性の評価(充放電を行う時の温度などの制御と共に)の検討へと進める。 得られた学術的な研究成果を内外の学会で発表するとともに,論文として投稿し発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ナノワイヤー作製用のケイ素,ゲルマニウム,錫等の金属固体原料費,炭素コーティングを行うためのエタノール試薬費,レーザー光照射を制御するためのミラーやレンズなどの光学部品費,窓板やバルブなどの反応容器部品およびアルゴンガスなどの費用など,消耗品費に研究費を使用する。また,試料分析依頼と打ち合わせ用の旅費,成果の学会発表用の旅費としても使用する。
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