自然界に存在するタンパク質等の生体分子の多くは、自己集合により規則的な構造体を形成することでその機能を発揮している。近年、微少構造単位の組み合わせでより大きな構造体を形成させる「ボトムアップ」手法によって、生体分子の構造や機能を模倣した人工的な構造体の設計と構築を行う試みがなされている。特にタンパク質集合体は、ドラッグキャリアーやナノリアクターといった様々な用途への利用が期待されており有用なバイオナノマテリアルになると考えられる。 そこで本研究では規則的な構造体である、らせん型のαへリックスを構造単位の分子とし、分子間の相互作用を人工設計によって導入し自発的会合を促進させることで、規則的構造を有するペプチドナノ構造体の設計と構築を試みた。また、特に今年度はこれらの構造体に新たな機能を付与すべく機能化を進展させた。実験では、設計したペプチドの合成精製を行い、構造を物理化学的測定によって、機能は生化学的手法により確認した。 この結果、設計ペプチドにケージ状またはへリックスバンドル状の構造体を形成させることに成功した。機能面では、この構造体内に最適の配置でアミノ酸を配し活性部位や相互作用部位を導入することで新たに以下の6つの機能を獲得した。1)脂肪中のエステル結合の加水分解能、2)アミロイド線維分解能、3)菌体および細胞凝集能、4)生体膜中での自己会合能とシグナル伝達の可能性開発、5)光による分子集合状態on/offの制御、6)金属(レアメタルを含む)結合能、である。特に、2)に関しては高齢化社会を迎えるにあたってアルツハイマー病などのアミロイド病に対する根源的治療法として、6)に関しては資源の有効リサイクル技術として、どちらも現代社会の問題を解決する可能性を秘めた技術でもあり、特許出願にもつながった。
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