われわれは半導体コロイダルナノドット(以下ドット)をフローティングゲートに用いた有機メモリトランジスタを提案し、CdSe/ZnSドットやPbSドットの単粒子層をゲート絶縁膜とペンタセン層の間に形成し、コントロールゲートに書込み用の正電圧を加えることによって大きな正のしきい値シフトが生じることを示した。このシフト量はドットの密度や大きさに依存することから、書込み電圧の印加によってペンタセン層からドットへトンネルした電子が閉じ込められてメモリ効果が生じるモデルを提案している。 しかし、最大のしきい値シフト量を得るためには数百秒の書込み時間が必要であり、実用化に対して大きな課題となっていた。これはドット表面を修飾している配位子が電子のトンネル確率を小さくしているためと考えられる。そこで本研究ではフォトルミネッセンス(PL)強度の時間分解測定によってドット間エネルギー移動の時定数を算出して配位子長さの影響を定量的に評価すること、さらに配位子が短いドットを作製して書込み時間への配位子の影響を明らかにすることを目的とした。 まず、配位子長約2nmのCdSe/ZnSドット薄膜の低温PLの短波長領域と長波長領域での時間特性を比較することにより8.7nsというエネルギー移動の時定数が得られた。次に配位子長が0.4nmの同ドットを用いて同様の実験を行ったところ、波長領域に関わらずPL強度が1ns程度以下の時定数で減衰した。したがってこの結果からはエネルギー移動の時定数が小さくなったためか、非発光緩和過程の時定数が小さくなったためかの区別ができなかった。次に、PbSドットをフローティングゲートに用いたペンタセンメモリトランジスタを作製し、配位子が長い場合と短い場合の書き込み時間を比較した。その結果、前者では200s以上であった書込み時間が1/3以下に短縮され、配位子の影響が大きいことがわかった。
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