研究課題/領域番号 |
23510136
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研究機関 | (財)日本自動車研究所 |
研究代表者 |
清水 貴弘 (財)日本自動車研究所, FC・EV研究部, 研究員 (90409657)
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研究分担者 |
今村 大地 (財)日本自動車研究所, FC・EV研究部, 研究員 (40426276)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | その場観察 / 電極触媒 / 燃料電池 / ナノ材料 / 電子顕微鏡 |
研究概要 |
現在、自動車用固体高分子形燃料電池には、白金ナノ粒子を高比表面積のカーボンに担持した電極触媒が一般的に用いられている。燃料電池を自動車に搭載することを想定し、運転を模擬した耐久性評価試験を行った場合、主にカソードにおいて電極触媒の劣化が進み発電性能が低下することが報告されている。これまでの研究から、電極触媒の劣化は白金ナノ粒子の粒成長・凝集、担体からの脱落、担体の腐食などの構造変化に起因すると考えられているが、その変化過程は明らかとなっていない。そこで本研究では、燃料電池用電極触媒の劣化メカニズムを解明するため、透過電子顕微鏡(TEM)を用いてカーボン担体および白金ナノ粒子を発電状態と同様の環境でその場観察することにより、電極触媒の構造変化過程を明らかにすることを目的とした。 平成23年度は、観察試料付近の温度・ガス雰囲気・湿度を制御するために、その場観察用温湿度制御システムを設計・作製した。本システムは既存のガス導入機構付き加熱試料ホルダと加湿器から構成され、TEM試料室内で試料の温度制御を行い、高湿度の空気を試料に噴射することができる。したがって、燃料電池のカソードを模擬した加湿空気雰囲気下において、カーボン担体および白金ナノ粒子の構造変化過程を観察することが可能となる。 加湿空気雰囲気において電極触媒のその場観察を行った結果、白金ナノ粒子がカーボン担体上を活発に動くこと、カーボン担体は白金ナノ粒子の界面で構造破壊を起こしていることなどが観察された。一方、乾燥空気雰囲気では白金ナノ粒子はカーボン担体上でほぼ静止しており、カーボン担体が表面層から徐々に酸化されること、数十秒~数分でカーボン担体の高次構造が徐々に崩壊し、その過程で白金ナノ粒子が凝集することなどが確認された。このことから、電極触媒の構造変化には空気中の水分が大きく影響することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、電極触媒の構造変化を観察するために必要十分な観察条件を見出し、これらの条件を適切に制御するシステムを作製することを目標とした。作製した温湿度制御システムにより、高湿度の空気雰囲気においてカーボン担体および白金ナノ粒子の構造変化のその場観察に成功したことから、本研究の進捗状況がおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に作製したその場観察用温湿度制御システムを用いて、加湿空気雰囲気における電極触媒層中のカーボン担体および白金ナノ粒子のその場観察を行う。 燃料電池の実使用環境では、電極触媒はイオン伝導性を有する固体高分子電解質で被覆されている。そのため、固体高分子電解質で被覆された状態の燃料電池用電極触媒層試料のその場観察を行う。観察試料に固体高分子電解質が含まれることから、加熱試料ホルダへの観察試料取り付け方法、固体高分子電解質への熱ダメージの影響、長時間に渡ることが予想されるその場観察における電子線照射の影響について重点的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度には、物品費から透過電子顕微鏡用試料ホルダなどの購入を予定していたが、予備検討により既存の試料ホルダでも必要な観察が可能であることが判明したため、新規購入する必要がなくなった。一方で、情報収集および成果発表などのための旅費が当初予算を上回った。これらの結果により、最終的には予算の繰越が可能となった。 平成24年度は、繰越された研究費を電極触媒のその場観察を実施するための装置使用料に充当し、実験回数を増やすことにより研究スピードを加速する。新たに請求する研究費は、当初予定していた装置使用料のほか、研究打ち合わせ、情報収集および成果発表のための旅費として使用する。また、実験データを保存するための記録媒体や実験に使用する消耗品のための費用として研究費を使用する。
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