研究課題/領域番号 |
23510139
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
青木 弘良 独立行政法人理化学研究所, 超精密加工技術開発チーム, 協力研究員 (50518636)
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研究分担者 |
池 郁生 独立行政法人理化学研究所, 実験動物開発室, 専任研究員 (40183157)
新谷 政己 独立行政法人理化学研究所, 微生物材料開発室, 基礎科学特別研究員 (20572647)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | マイクロ流体チップ |
研究概要 |
本研究は,環境中の難培養微生物を顕微鏡下で簡便に分離後,微小チャンバー内でゲノム増幅し,バイアスの少ない増幅DNAを得るための,マイクロ流体チップの開発を目的とし,以下の実験を行った.【1.マイクロ流路設計】難培養微生物検出・分離用の,幅50μm×深さ10μmの微細なマイクロ流路を設計し,ポリジメチルシロキサン(PDMS)マイクロ流路作製用のフィルムマスクを作成した.【2.DNA分離用ナノファイバー】マイクロ流路内で菌体やDNAを分離するために,ナノファイバーフィルタ(目付け量0.54 mg/cm2)を作製し,λ/HindIII DNAマーカーサンプルの分離を試みたが,DNAがナノファイバー膜を透過したため,今後は目付け量の増加やDNA吸着性のナイロン・ナノファイバー膜などを作製する.【3.分離予備実験】(1)フローフォーカシング:シース流を用いた菌体の分離と流路壁面への付着紡糸のため,テスト用マイクロ流路(W50μm×D 50μm.3流路が一本に合流.両端:シース,中央:サンプル)を用い,Φ1μm 蛍光ビーズ(FB)の分離を試みたところ,シース流によるFBの分離とフォーカシングを確認した.(2)分離用電磁バルブ:分離用分岐流路の先端に超小型電磁バルブを接続し,FBの分離を試みた.しかし観察用低流速条件(100-nL/min)下では,電磁弁配管抵抗が高く,弁を開いても分離できなかった.ただし排出口のチューブを直接押さえるとFBを止められるため,適切な位置にピンチバルブを設置することで微生物分離が可能になると考えられる.予備実験により実験に必要な機材を選定する予定だったが,時間が足りず購入が間に合わなかった.これらの未使用額およびH24年度請求額は,実験を早急にすすめ,今年度実験に必要な機材(バルブ,ポンプ,消耗品)等に使用したい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題と関連する従来技術として,マイクロ流路を用いた蛍光セルソーター(Wolff A, 2003他)や,多数のバルブを使用し,微生物の分離と一菌体ゲノム増幅を行うマイクロ流体チップ(Marcy Y, 2007)が報告されている.前者は多数の動物細胞集団より,特定の蛍光標識した細胞を蛍光に基づき高速に分離し,後者は画像処理と多数のバルブを用いることで,特定の形状の細胞を自動的に単離して一菌体ゲノム増幅を行う.本課題はこれらの研究ではあまり検討されてこなかった,(1)マイクロ流路構造の簡略化(バルブレス)のための,高流速・高流量ナノファイバー膜を用いた菌体およびDNAの分離,(2)超低速送液による菌体の目視観察と手動での菌体分離,を最初の技術目標とした.初年度はこれら技術課題に対し,(1)アルカリ性DNA抽出試薬に対し耐性の高い,ポリアクリロニトリル(PAN)やポリエーテルサルホン(PES)ナノファイバー膜の作製,PDMSを用いたナノファイバー膜の接着,およびナノファイバー膜によるλ/HindIII DNA をモデルサンプルにした用いた分離実験,(2)テスト用マイクロ流路(W50μm×D50μm)を用いたFBのフローフォーカシングによる整列化およびバルブ操作によるFBの分離実験を行った.その結果(1)ナノファイバーの基材上への堆積,基材からの回収,および接着技術の確立,(2)シリンジポンプによる層流形成,フローフォーカシングによるFBの流路中央への整列化と分離,が達成できた.これらは本研究課題の重要な技術であるため,確率に時間がかかったが,今後は残る課題の(1)目付量の増加によるナノファイバーによるDNAの分離,(2)ピンチバルブによる送液制御技術の確立,を早急に進めたい.
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今後の研究の推進方策 |
今後は早急に当面の課題である,(1)一菌体分離・ゲノム増幅チップ用SU-8フォトレジスト型の作製と,PDMS流路の作製,(2)ナノファイバー目付量とDNA分離能の評価,(3)流路先端のチューブ上へのピンチバルブの設置と,ピンチバルブの開閉による送液制御,(4)これらを組み合わせた,一菌体分離・ゲノム増幅チップの作製と,モデル微生物(GFP導入Pseudomonas)を用いた評価を進めていきたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は技術的な難しさによる予備実験進捗の遅れのため,2,281,470円が未使用額となった.平成24年度の請求額を加えた次年度研究費(3,281,470円)の使用計画として,(1)マイクロ流路作製用機材:スピンコーター,オーブン,シリコンウェファー等消耗品,(2)マイクロ流路送液用機材:送液制御用ピンチバルブ,ピンチバルブ制御用電気回路製作,などの装置製作,および(3)分子生物学実験用試薬:ゲノム増幅試薬,定量PCR試薬等,などに充当したい.
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