研究課題/領域番号 |
23510139
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
青木 弘良 独立行政法人理化学研究所, 超精密加工技術開発チーム, 協力研究員 (50518636)
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研究分担者 |
池 郁生 独立行政法人理化学研究所, 実験動物開発室, 専任研究員 (40183157)
新谷 政己 静岡大学, 工学部, 准教授 (20572647)
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キーワード | マイクロ流路 / ナノファイバー / 一菌体ゲノム増幅 / 難培養微生物 |
研究概要 |
1.一菌体分離・ゲノム増幅チップ用送液系の構築 マイクロ流路内で微生物菌体を視認し,目的の微生物を単離するために,送液系の開発を行った.約50×50μm径のシリコーンマイクロ流路に対し,250μL容のガラスシリンジによるシリンジポンプを用いて蛍光ビーズを送液した.送液速度100 nL/min以上で蛍光ビーズは安定に流れたが,高速に送液され,顕微鏡下での視認は困難だった.一方100nL/min以下では高い内部配管抵抗により,送停止を繰り返した.そこで電気泳動および静水圧(注入口と排出口の液面差)を用いて蛍光ビーズの送液を検討した.その結果,電気泳動および静水圧とも,視認可能な約200μm/sで蛍光ビーズを送液できた. 2.ゲノム分離用ナノファイバー膜の作製 単離した菌体は,流路内に設置したナノファイバー膜上に保持し,アルカリ溶菌,中和,およびゲノムDNAの酵素増幅を行う.ナノファイバー膜は架橋剤無しに耐水性,耐アルカリ,および低蛍光で,菌体およびゲノムDNAを保持できる十分に小さい口径を持たなくてはならない.そこで耐水性をもち,低蛍光のポリビニルブチラール(PVB)に着目し,エレクトロスピニングにより約3μm厚の薄いPVBナノファイバー膜を作製した.一般にナノファイバー膜は,繊維径が約100nmと微細なものの,繊維間架橋が少なく,架橋剤や熱融着による網目構造がないと分離能が低い.そこでPVBを水に浸漬すると,水に対する反発から圧縮,自己融着し,簡便に網目構造を作製できた.またPVBナノファイバー膜は高い表面積を持ち,高い撥水性を示すが,低濃度の有機溶媒を添加すると撥水性を抑え,水を浸透できた.そこで実際にカバーガラス上の大腸菌上にPVBナノファイバー膜を作製し,アルカリ溶菌,中和,およびDNA蛍光染色を行うと,ナノファイバー下に各菌体のゲノムDNAを安定に保持できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでマイクロ流路内で細胞分離を行うセルソーターの報告が行われ,多数の細胞をハイスループットに分離するため,高速な送液と蛍光強度による自動分離技術は研究されていたが,逆に低速での送液は困難だった.しかし電気泳動や静水圧などの簡便な低速送液技術や,分離した菌体を保持しゲノム増幅するナノファイバー膜を開発できたため,最終年度の平成25年度はすみやかに研究を進め,分離技術を確立し,モデル微生物の分離とゲノム増幅を行いたい. および増幅DNAの品質評価を行いたい.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は比較的制御が簡便な,電気泳動を用いた菌体分離技術の確立した後,(設計済みの)分離用マイクロ流路の作製を作製し,一菌体分離・ゲノム増幅チップシステムを構築する.構築されたシステムを用い,モデル微生物(大腸菌,Pseudomonas,CAR Bacillus)などの一菌体分離とゲノム増幅を行い,定量PCRや次世代シーケンサーによるゲノム解析,およびゲノムタイリングアレイによって,従来法であるバルクで増幅したゲノムDNAと比較することで,本法による増幅バイアスの改善を検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進展が遅れたため,次年度使用額が発生したが,その分と翌年度分として請求した助成金と合わせ,菌体分離用電極および制御回路の開発や,一菌体分離・ゲノム増幅チップシステムの作製,および消耗品として,増幅DNA評価のための,ゲノムワイドの定量PCRのためのプライマーおよび試薬の購入,次世代シーケンサー解析費用に用い,研究の促進を図る.
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