研究課題/領域番号 |
23510145
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
高田 主岳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20361644)
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キーワード | 微小ポンプ / 電気化学ポンプ / アクチュエータ / 高分子ゲル / エネルギー変換素子 / 酸化還元 |
研究概要 |
銅イオンを内包したポリアクリル酸ゲルによる微小電気化学ゲルポンプの基礎的特性評価および動作特性の改善を行った。前年度までに、ポンプの動作初期に排水量が電気量により制御できない問題を、金管の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸による修飾でゲルとの摩擦を軽減することによって解決してきた。しかし、電気量当たりの還元時における排水量と、酸化時における吸入量とが一致しないことが多々あった。これは還元時にはゲルが下方向へ膨潤するため、排水は容易であるが、一方、酸化時には重力に打ち勝って収縮しなくてはならず、また、収縮時に放出する水が上部のリザーバに戻らず、金管の下部に残ってしまったり、ゲル自体が下方向へ移動してしまうためと考えられた。そこで、これまでに垂直に保持していたポンプを水平に設置し、ゲルの膨潤収縮に与える重力の影響の緩和を試みた。 電流密度を-4.4および+4.4 uA/cm2をポンプに印加したところ、1サイクル目では、還元および酸化で、排水量および吸水量は共に1.1 ulとなった。2サイクル目では量は減少したものの、排水量は0.6 ul、吸水量は0.7 ulとなり、吸排水量を一致させることができた。サイクリックボルタンメトリーによる制御においても、これまでの垂直ポンプでは排水量が2.5 ul、吸水量が0.4 ulであったのに対し、水平ポンプではそれぞれ3.2 ulおよび2.0 ulと大きく改善することができた。 ゲル内における銅イオンの分布の評価では、原子吸光法により、硝酸銅水溶液を接触させた側に近いほど、ゲル内の銅イオン濃度は高いことが明らかになっていた。しかし、測定方法における分解能の制限から、金管の長さ方向のみの評価であった。そこで直径方向の分布も評価するために、分解能が飛躍的に向上するオージェ電子分光法により評価を行うこととし、その試料作成方法を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小電気化学ポンプの基礎特性評価および動作特性の改善では、還元時の排水量と酸化時の吸入量を一致させることを試みた。これまで垂直に設置していたポンプを水平に設置することにより、電流規制法による動作で吸排水量をほぼ一致させることに成功した。これにより吸排水量を電気量でほぼ制御できるようになり、研究が大きく進んだ。 ゲル内における銅イオンの分布と膨潤収縮挙動との関係の評価では、ゲルのサイズが微小なためそこに含まれる銅イオンの絶対量が少なく、再現性よく定量することが困難であった問題の解決に取り組んだ。これまで原子吸光法による銅イオンの定量に用いるゲルのスケールアップによって、絶対量の増加を試みた。これまでのところ、この方法では銅の酸化還元反応に時間がかかることから、有意義な結果は得られていない。そこでオージェ電子分光法を用いることにより、再現性や分解能の向上を試みている。この方法によれば、ゲルのサイズはこれまで通りで良いため、より実際に即した評価が行えるものと期待される。またこれまでは分解能の制限から金管の長さ方向の分布のみしか評価できなかったが、直径方向の評価も行えると思われる。現在はオージェ電子分光法による測定に適した試料作成方法について検討を行っている
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今後の研究の推進方策 |
ゲル内における銅イオンの分布と膨潤収縮挙動との関係をより詳細に評価する。前述した様に、オージェ電子分光法によりゲル内の銅イオンの分布をより高分解能で評価する。初期状態、還元および酸化後の分布の、三次元での評価を目指す。また、初期状態における銅イオンの分布が膨潤収縮挙動に与える影響を評価する。 これと平行して、電気量によるゲルポンプの吸排水量の制御や流速制御の精度向上を目指す。これまでに、ゲルと金管との摩擦は、金管の化学修飾することにより軽減できた。また、排水量と吸水量との差は、重力の影響を緩和することにより改善できた。さらに精度を向上させるために、ゲルの構造や組成、さらにポンプのシリンダである金管の構造の検討を行う。ゲルの架橋密度の均一性を高めるために、光重合によるゲルの合成を試みる。 また、これまで酸化還元活性種として銅を用いているが、ヒドロキノン/ベンゾキノンの利用を試みる。ヒドロキノンを酸化することによってベンゾキノンとなるが、このときプロトンを放出するためにpHは減少し、ゲルは収縮する。一方、ベンゾキノンを還元することによりプロトンを消費するためpHは上昇し、ゲルは膨潤する。キノンはヒドロキノンおよびベンゾキノンのどちらの酸化状態においても電荷を持たず、また電極上に析出することもないので、還元時に金属として析出する銅の系よりも、還元と酸化時における動作の対称性がよくなると考えられる。これにより排水量と吸水量の制御がより容易になると期待される。 金管の多孔質化も行いたい。これまではゲルが膨潤収縮するための水は、リザーバのものを利用している。この場合、水は金管の一方からのみ出入りするため、そこから遠いゲルの膨潤収縮は遅くなっていると思われる。金管を多孔質化すれば、全体的に水を補給および吸収することになり、ゲルの体積変化を速くでき、また均一化もできると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品としてポンプのシリンダとなる金管、ゲルの膨潤方向を制御するための金メッシュ、さらに研究遂行に必要な試薬・ガラス器具などを購入する。 研究成果発表や他の研究者との情報交換のために旅費を計上し、その他には複写費や研究成果発表費(論文別冊代)を計上した。
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