研究課題/領域番号 |
23510148
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山口 雅史 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20273261)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ナノワイヤ / GaAs / InGaAs / VLS / MBE / 液滴 |
研究概要 |
我々はこれまで, MBE装置を用いたVLS法により,無触媒でSi基板上へのGaAsナノワイヤの作製に成功している。今年度は,ナノワイヤ成長方向に三元混晶であるInGaAsを成長することでヘテロ構造を作製しその成長機構を明らかにすることを試みた。 (111)Si基板上にGaAsナノワイヤを成長した後,成長中断せずにInGaAsの成長を行い,最後に光学測定を行うためにGaAs/InGaAsナノワイヤ構造をAlGaAsで覆った。この試料を走査型電子顕微鏡:SEM,カソードルミネッセンス:CLおよびエネルギー分散形X線分光:EDXによって評価した。SEMおよびEDX観測により,ナノワイヤ先端にInGaAsが成長していることが確認できたが,GaとInの気相比を1:1以上にInを供給しているにもかかわらず,Inは微量にしか混入しておらず,CL観測においても,GaAsとInGaAsが混在したピークになった。また, InGaAsが成長した部分はGaAsナノワイヤ部分よりも直径が太く約40 nmとなった。MBEによるVLS法においては,V族律速として考えられているナノワイヤの直径が過剰なIII族原料のために直径が太くなったと解釈でき, Inがナノワイヤ成長の触媒の働きをしていると考えられる。 この,InGaAsナノワイヤの成長機構を解明するために,InとGaの液滴表面,液滴とナノワイヤ結晶の界面,そしてInGaAsナノワイヤの側面におけるギブスの自由エネルギーを考えることで,熱力学的解析を行った。液滴接触角が58度付近で自由エネルギーが系として安定な最小値をとった。これを考慮して液滴の体積に対するナノワイヤの直径を見積もったところ,約40nmで収束し,実験結果と良く一致した。このことから,三元混晶ナノワイヤの成長機構についてある程度明らかにすることができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の実施計画書では,GaAsナノワイヤに三元混晶を様々な成長条件で成長し,その成長機構を解明することを目的としていた。本年度は,この計画書に従い,GaAsナノワイヤを無触媒で成長し,その後三元混晶であるInGaAsを成長することで,軸方向のヘテロ構造の作製を行った結果,Inの取り込み量は微量ではあったが,軸方向GaAs/InGaAsヘテロ構造を有するナノワイヤ構造の作製に成功した。 しかしながら,InGaAsナノワイヤの直径は,その土台となっているGaAsナノワイヤの直径に比べて,太いものとなっていた。これは,無触媒GaAsナノワイヤの成長機構と少し異なっているからであり,この成長機構の解明を行うために熱力学解析により形成される液滴とナノワイヤ結晶について計算を行ったところ,InはVLS成長の核となる液滴には取り込まれるものの,ナノワイヤの結晶へは余り取り込まれずに,液滴に残留していることがわかった。また,Inが液滴に残留することで液滴が大きくなり,ナノワイヤの直径が太くなったことがわかった。 以上のように,当初の計画通りに本年度の研究は遂行された。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に様々な成長条件下において成長したナノワイヤから得られた情報を基に,デバイス応用を見据えたGaAsナノワイヤあるいは三元混晶ナノワイヤへの不純物ドーピングを行う。不純物としては,SiとBeを用いる。ただし,SiはIV族であるために,GaAsナノワイヤではGaサイトにSiが入ったn形ではなく,GaAs側面に取り込まれることによりAsサイトにSiが入ったp形になるとの報告もあり,電気的特性評価ならびにラマン測定等により総合的に判断を行う。また,不純物ドーピングは結晶に対して極めて微量な量であるために,GaAsナノワイヤや三元混晶ナノワイヤ成長時においては形状変化あるいは組成変化といった顕著な変化は見られないと予測するが,不純物ドーピングにより形状や三元混晶の組成が顕著に変化するようなことがあれば,先の成長モデルに付加的な要素を加味する必要がある。 ナノワイヤには,その細さ故に結晶欠陥とくに双晶が含まれることがよく知られている。しかしながら,触媒を用いたVLS成長においては成長温度や原料供給量,基板面方位等を制御することで,この双晶を抑制することが可能として発表されている。平成23年度に示した各種成長条件において双晶の密度を測定し,成長条件と双晶密度の関係を調べる。それによって,双晶の原因が成長温度であるのか,原料の供給量であるのか,あるいは二元あるいは三元混晶など原料自体に依存するものであるのか,不純物ドーピングに依存するのかどうか,といった関係性を明らかにし,双晶の発生しない三元混晶化合物半導体ナノワイヤの実現を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においても,平成23年度と同様にナノワイヤ成長において必要となる半導体材料,基板,液体窒素,ガス,薬品等に物品費を当てる予定である。残りは,昨年度の成果をもとに国際会議と国内会議への成果発表,ならびに印刷物等があればその印刷費に研究費を使用する予定である。
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