研究課題/領域番号 |
23510149
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
GALIF KUTLUK 広島大学, 放射光科学研究センター, 研究員 (00444711)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
|
キーワード | 金属ナノ粒子 / ナノ触媒 / 表面物性 / 光電子分光 |
研究概要 |
平成23年度は、Mantis deposition LTD社の MesoQ (Q pole mass filter)装置を用いて粒径がそろったAuナノ粒子を粒径別(1.5nm,2.0nm、3.0nm,5.0nm,7.0nm)に精密に創製して、異なる基板(TiO2,MgO,SiO2,BN,そしてHOPG)それぞれ付着させ、蒸着量の規格されたサンプルの作製を目標に進める予定であった。しかし、H23年7月、Q pole mass filterの納品前の検収段階において、製品が仕様の肝心な2項目(Mass range: 2-106 a.m.u;Resolution: ~2%)を満たしていないことが判明した。その後12月の上旬までメーカーと双方でテストを繰り返したものの、結局契約時の上記仕様をクリアすることが出来なかった。その理由は、このカタログ値は理論計算に基づいたもので、実測ではないことであった。よって、このQ pole mass filterの導入を断念することとなった。その結果、5月から12月上旬までの期間での作業が23年度の研究成果に直接反映されことにはならなかった。その mass filterの購入契約を結んだ代理店であるデガサイエンス(株)は本来の性能とは異なる仕様に基づいて契約を交わしたことによる本研究の進行へもたらした悪影響を認識した上で「顛末書」をもて広島大学に報告がなされた次第である。 一方で、本研究の最終目的はナノ粒子を作ることだけではなく、粒径を揃えた粒子の物性評価がメインである。そのため、そのMass filter に頼らない方法でナノ粒子の粒径制御を行うことで研究の目標を変える事無くそのまま実行するにした。具体内容は次の「現在までの達成度」欄を参照。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
金属ナノ粒子の作製については、まず、提案書に記載したガス中蒸発法を用いて行う。粒径の制御はガス中蒸発装置の蒸発部の改良により行う。具体的には放射熱遮へいを施すことにより金の蒸発レート制御性を向上させる。また別途、基板温度の調節より粒径制御を試みる。超高真空中において金, 銀等を蒸発させて、その体積させる基板の温度の調整により付着粒子の粒径を制御する。この場合基板の温度を液体窒素温度から1000℃までの間で変化させることが想定される。今年1月から基板温度可変出来るマニピュレーターの新規設計にとりかかった、最近になって仕様が固まったので発注を行った。このマニピュレーターの設計に平行して今年一月下旬からは、超高真空中において金、銀,等を蒸発に取り組んでいる。金の薄膜作成には普通、束ねた金の細線をタングステン(W)バスケットのなかに置き、そのWバスケットへの通電加熱により金線を蒸発して薄膜制作を行う。この方法の難点は蒸発レートの制御の微細さにあり、この方法では金ナノ粒子の粒径制御を行うのは困難である。そのため、より精密に蒸発レート制御が出来るような蒸発源の自作を行った。ルツボにはモリブデンを用いた。この自作の蒸発源を用いた場合蒸発レートの制御が向上して、0.01nm/min のレートでの蒸発が可能であることを確認した。その上、蒸発時のチャンバーの真空環境は3.0×10-8 Paを維持できることが分かった。そして、この蒸発蒸着源を用いてHOPG上形成したAu薄膜をXPS測定による評価をしたところ、OやNなど不純物による汚染は検出されなかった。よって、高純度のAu薄膜の作成法が確立した。温度可変のマニピューレータが導入されれば、高純度のAuナノ粒子創製にすぐに取り掛かることが出来る。 既存ガス中蒸発装置の蒸発部の遮へい部の改良については、設計がほぼ終了して、近々発注する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、前年度実施出来なかった粒径別(1.5nm,2.0nm、3.0nm,5.0nm,7.0nm)のナノ粒子をそれぞれ異なる基板(TiO2,MgO,SiO2,BN,WそしてHOPG)創製する。これは超高真空におけるAu蒸発レートの微細な制御と基板温度に調整による粒径制御法そして改良しガス中蒸発法の併用により実現する。 次に、提案書に記載した通り、今年度はシンクロトロン放射光の活用により粒径別のナノ粒子の表面電子構造を調べるために真空紫外光電子分光を行う。実際、光電子の自由行程の励起エネルギーへの依存性の活用、そして角度分解光電子法の併用によりナノ粒子表面状態を詳しく調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1)既存の中蒸発装置の蒸発部radiation shieldの改良を施す費用。ことにより金の蒸発源周りの熱効率をよくする、そして蒸発温度の制御性を向上させる。2)基板の温度を液体窒素温度(-196℃)から1000℃までの間で変化させることできるマニピューレータの導入費。これには前年度Q pole mass filterの購入予定の未使用経費を当てる。3)TiO2,MgO,SiO2,BN,W、そしてHOPG等の基板購入費。4)得られた成果を春季応用物理学会(2013年3月)にて発表を行うための旅費。
|