研究課題/領域番号 |
23510149
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
GALIF KUTLUK 広島大学, 放射光科学研究センター, その他 (00444711)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ触媒 / 金属クラスター / 希土類金属 / 電子構造 / 電子分光 / 逆光電子分光 / STM |
研究実績の概要 |
金ナノ粒子によるナノ触媒の活性特性の評価を行うために、実用助触媒であるセリア(CeO2)薄膜の創製を行った。セリアを貴金属と組み合わせることにより、COの低温酸化反応のような優れた多様な触媒特性を演じる。この高い触媒特性は,貴金属からの電荷供給によりCe3+が形成され、酸素がセリア格子からあふれ出すとなるような協調的な効果によって説明される。セリウム酸化物が還元状況において酸素を放出して化学量論の生成物をともに還元状態の酸化物シリーズを形成する、そして酸素を貰ってセリアに戻るといったような奇妙な性質を利用する。セリアの酸化・還元特性はCe4fの電子と深く係わっている。一方、Ceは原子においては3価 (Ce3+) であり,固体においてCe3+とCe4+ (4価)が混在し、その価数は結晶構造と深く係わっている。Ceの価数が周りの環境のちょっとした変化によって3価と4価の間を行き来する。この価数揺動のメカニズムは完全に理解された訳ではでない。そのため、本研究ではCe薄膜を高配向熱分解黒鉛(HOPG)上にファンデルワールスエピタキシーにより結晶成長させ、原子構造と電子構造の対応を明らかにする研究を進めている。このようにして創製されたCe金属薄膜の内殼3dX線光電子スペクトル(XPS)の測定を行った。膜厚に依存したスペクトルの変化が見られ、Ce金属から酸化物に変化する過程を実験的に観測し良く定義されたセリア薄膜表面を創製した。この測定ではCe3dの他にCe4d, Ce valence band, O1sそしてC1sについても調べた。膜厚が小さい時にはスペクトルはほとんどCe3+によって特徴付けられる、膜厚が5nm になるとCe4+の成分が観測されるようになる。酸素のみをdoseしただけでは価数に大きな変化が見られなかったが、大気の成分が価数に影響を与えることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
希土類金属、特にCeは非常に活性な金属であるため、10-7 台高真空においてCeの酸化は避けられない。実際10-7Pa台の真空中で作成したCe薄膜に酸素不純物の含有が見られたのである。このような真空では、純粋はCe金属膜、Ce2O3膜,そしてCeO2膜をそれぞれ作り分けすることが出来ない。そのため現有の超高真空対応電子構造解析システム(XPS)の真空改善が必要となっている。XPSにNEGポンプ,Tiゲッターポンプ等の排気装置を増強し,試料創製時において10-8Pa台前半の真空を維持できるように進めてきた。その結果整備した電子構造解析システム(XPS)の真空が10-9Pa台後半に達していることが分かった。しかし、計測系の電源トラブルのために、この真空中におけるCe薄膜の創製・計測にいたっていない。現在その電源の修理・整備を行っている。この他、Ce薄膜の純度向上を図る蒸発源自身から出ガスを抑えるためにコンパクトな蒸発源の開発を行った。この新規開発した蒸発源のパフォーマンスはSmの薄膜形成実験で確認済みである。
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今後の研究の推進方策 |
①Ceクラスターおよび薄膜の創製に適した実験装置の改良 Ce4f電子の挙動を理解するために,純粋なCeナノクラスターから薄膜にかけての結晶成長を分子線エピタキシーにより行う。既にSmで同様の実験を遂行しておりCe蒸着源の技術的な開発は既に完了している。希土類の実験では酸化が問題になるため,現有の超高真空装置にNEGポンプ,Tiゲッターポンプ等の排気装置を増強し,試料創製時において10-8Pa台前半の真空を維持できるようにする。基板HOPG, W(110), Ni(111)表面にそれぞれ異なる膜厚(0.1~60)の高純度Ceを形成して、酸素による酸化そして熱処理による還元過程に置けるセリウム酸化物(CeO2-x)にたいしてLEED, XPS, ARPESなどを用いて結晶構造、内殼電子状態(3d,4d)そして価電子帯の電子構造を調べることにより4f電子と5d,6s電子との相関が高純度Ce金属膜場合に比べてどう変化しているかを調べる。 ②占有・非占有電子構造の観測 清浄なCeクラスターおよび薄膜成長を行い,in situで放射光光電子分光(共鳴光電子分光)による4f電子系の観測,共鳴逆光電子分光による4f非占有電子構造の計測を行い,クラスターサイズ,膜厚依存性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
XPSシステムの真空改善、そして光電子分光アナライザー電源の修復整備等に手間取り、Ce酸化物による助触媒創製が遅れた。そのために今年度ずれ込んだのである。
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次年度使用額の使用計画 |
試料準備槽に取り付けるNEG ポンプおよびトランスファロッドのの購入、学会発表旅費
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