研究課題
Auナノ粒子の結晶構造と電子構造を明らかにする。固体では安定なAuが,2~3nmのナノ粒子になると活性化する。この性質の変化を電子構造と関連付けて解明することが本研究の主たる目的である。ナノ粒子の局所的な構造と電子状態の関連を見るためにSmナノ粒子について走査トンネル顕微鏡による構造解析とトンネル分光による電子構造解析を実施した。観測の結果,0.2nm以下では非金属的な振る舞いをするのに対して,0.3nm以上では金属的なバンド構造を示すことを確認できた。固体状態では,d,f電子がフェルミレベル近傍に非占有状態をもつが,ナノ粒子になるとフェルミレベル上の状態密度は消失する。局在性の高い電子軌道が原子構造の変化に対応し変化する様子を確認できた。グラファイト(HOPG)上にAuナノ粒子を創製し光電子分光によりAuの電子構造を解析する実験を実施した。Auナノ粒子の表面と内部の電子構造を区別するために,励起光エネルギーを変化させた実験を行い,局在性の高いd,f電子軌道の構造依存性を確認した。局在電子構造が顕著に見られるCeについて,原子構造と電子構造の関係を調べる実験を行った。Ce酸化物(セリア)は実用触媒として知られ,その性質の解明は実用面でも重要である。膜厚が5nm以下のCe金属ナノ薄膜の場合,酸素暴露に鈍感でCe3価構造が変化しない。膜厚が5nm以上の薄膜では4価の成分が観測され,さらに純粋な酸素環境で暴露しても価数に大きな変化があらわれない。さらに大気暴露で完全な4価に移行することから酸素以外の水などのガス成分が酸化を促進させている可能性が示唆された。本研究の最終目標の解明にまでは至らなかったものの,局在した電子軌道が触媒などの化学的性質発現に重要な役割を担っていることが,局在電子軌道を有する複数の元素をもとに明らかにすることができた。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
巻: 85 ページ: 014703
10.7566/JPSJ.85.014703