研究概要 |
医学の発達が著しい今日において, 完治が困難ながんをはじめとして, エイズ, 薬剤耐性菌感染症など, 多くの病気に対してワクチンによる発病予防への期待が大きい. ワクチンの開発においては, 主要組織適合抗原(MHC)クラスII におけるペプチド結合予測が極めて重要な課題である. ペプチド結合予測においては. その他に様々なヒューリスティック方法が提案されているが, ORの観点から, 既存の予測方法は, いずれも予測の精度と計算時間の効率性の両面で, 質の高いものとは言い難い. そこで, 本研究では, これらの予測に使われている数理モデルを分数和計画問題として一般化し, その問題を解くアルゴリズムを提案する. 具体的にはワクチン開発における重要な問題である主要組織適合抗原(MHC)クラスII におけるペプチド結合予測の中核はEntropyの最大化問題を分数和計画の最適化問題に帰着できる. 本研究業績は分数和計画の最適化問題に関するものである. 方法として, 既存の線形分数和問題に対するアプローチをペースに, 非線形関数である分子関数と分母関数の上下界値を求め, 各分数項の関数に対して分子限定法を適用することにより, 非線形分数和問題まで扱いことができるアルゴリズムを提案した. また, 典型的なNP困難な巡回セルスマン問題 (Traveling Salesman Problem) がこの問題の形で書き直せることを示した. 計算機実験では提案したアルゴリズムの有効性と効率性を示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画としては以下のように分数計画問題の最適化を行うことでした(1) 半正定値計画を用いて分数和計画の多項式緩和を考える.(2) 分数問題と等価式の最適解になる条件についても調べる.(3) その上で,緩和問題を解くアルゴリズムの提案と計算機実験を行う.分数計画の最適化に関しては, 研究成果があったが, 半正定値計画を用いた方法ではなかった. 小規模な実験結果では凸の緩和問題の効率性が確認されたので, 凸計画法とそのアルゴリズムを中心に研究を進めた.
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度にはMatlabのBioinformatics ToolBoxを購入した. H24年度は主に生物学・薬学の研究者への訪問や、国内外の学会などにおいて研究成果を発表することに研究費に充てることにする予定. 具体的には5月に室工大の客員教授Bruce Y. Ma教授, 中国復旦大学の情報生物学者であるDONG Qiwen先生などの生物関連の専門家に訪問し, 旅費を充てる予定. 8月19日から24日の間にベルリンで開催されるThe 21st International Symposium on Mathematical Programming (ISMP)に数理計画の研究成果を発表する予定. また, 研究成果を生物情報系の研究会で発表することと, 次年度末には研究論文の添削にも研究に充てる予定.H25年度には遺伝子機能予測モデルを確立するために, 分子生物学専門家にコメントをしてもらうことに対する謝金や, 研究成果を発表するための国外(内)旅費に充てる.
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