多変量データにおいて,複数の変量が同時に大きな(または小さな)値をとる事象(極値相関)はさまざまな場面で観察され,株式市場の暴落など状況によっては大きなリスクにつながる可能性がある.本研究では,そうした事象に対する統計的モデリングの手法や推定方法と,ファイナンス関連分野を中心に極値相関の影響の評価やリスク管理手法などについて研究を行った. 本年度は,金融市場や経済環境における高リスクと低リスクの状況変化をレジームスイッチを伴う多変量時系列でモデル化し,リスクの高低が個人の消費や投資に及ぼす影響を分析した.その結果,レジームスイッチモデルが,過去の消費や投資行動をよく説明できることが明らかになった.また,個人の最適行動を解析的に導出して分析した結果,消費や投資は現在のレジームだけではなく,将来起こり得る他のレジームの影響も受けており,最適行動においては極値事象の発生に予防的に備えていることが示された.また,機関投資家が利用する多変量ファクターモデルに関する実証分析では,レジームスイッチモデルが2008年のリーマンショック以降の金融市場の混乱を極値事象として捉えており,その観察にもとづいて高リスク時の投資を抑制することで,最適投資においては安定的に良好なパフォーマンスが獲得できることが示された.さらに,板情報を利用した株式取引に関する分析では,価格が大きく変動する際には複数の価格の注文量が同時に増減するハーディング現象が発生していることが確認された. 研究期間全体を通して極値相関のモデル化を検討した中では,理論的にも実証的にもレジームスイッチモデルが有用と考えられ,今後は本研究で分析した分野以外にも適用範囲が広がることが期待される.
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