本研究では,サプライ・チェインにおけるリスク管理のための最適化モデルを作成した.開発した最適化モデルは,以下の通りである.1)経済発注量モデル,2)在庫方策最適化モデル,3)安全在庫配置モデル,4)ロジスティクス・ネットワーク設計モデル,5)ロットサイズ決定モデル,6)配送計画モデル,7)収益管理(動的価格付け)モデル. すべてのモデルは,サプライ・チェインの全体最適化のために,個別モデルの各データを,抽象度の高い「活動」,「資源」,「点」,「枝」,「期」などの抽象ロジスティクス・オブジェクトに対応させ,整理した.さらに,これらモデルに内在するデータを記述するための言語使用であるSCML(Supply Chain Modeling Language)仕様を定め,相互間でのデータ交換を可能にした.またSCMLにしたがって記述したモデルを最適化ソルバーと連携するためのモジュールの開発を行った. 結果の一部であるが在庫方策最適化モデルに対しては,1)単一期間単一品目の在庫モデルである新聞売り子モデルに途絶を加味したモデルを考え,従来の解析的モデルと数理最適化に基づくモデルの比較,2)絶を考慮した新聞売り子モデルに対してCVaRを評価尺度としたモデルを考え,数理最適化モデルを構築し実験的解析,3) 絶を考慮した多期間の確率的在庫モデル,適応型モデル,ならびに比較実験,4) 複数調達を考慮した確率的在庫モデルを構築した.また,実験を通して,従来の研究では得られなかった様々な知見を得ることに成功した.たとえば,需要の標準偏差が大きくなると,基在庫レベルの変化は,凹費用関数と階段関数を合成した関数となることや, 途絶確率が大きく,かつ需要の標準偏差が大きいときには,需要のばらつきがない場合の最適な基在庫レベルより小さく設定する領域から大きく設定する領域への相転移が発生することが分かった.
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