研究課題/領域番号 |
23510169
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
乾口 雅弘 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60193570)
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キーワード | ファジィ線形計画法 / ロバスト最適化 / 必然性測度 / 含意関数 / イルノウン集合 / ロバスト順序回帰 / 必然的最適性 / 必然的有効性 |
研究概要 |
今年度は,多くの研究課題があったので,実用性や新規性の高いものから研究を進め,次の成果を得た. 1.一般の必然性測度を用いる研究に対しては,意思決定者のロバストネスに対する要望をどのように必然性測度を用いて表すかが課題となり,解法も併せて研究した.不明確な係数を含む線形計画問題を取り上げ,意思決定者の様々なロバストネスに対する階層的な要望をレベル集合間の包含関係の推移で表し,それに応じた必然性測度がうまく定められることを示した.また,この手法を導入した二分法に基づく解法を提案した. 2.グレード付きイルノウン集合の計算が上下近似を用いて簡単に行えるための十分条件,必要十分条件を示すとともに,グレード付きイルノウン集合の包含関係について議論した.また,グレード付きイルノウン集合が上下近似で完全に定められる場合を示すとともに,線形計画問題に応用し,制約充足性に関してロバストな解が二分法とシンプレックス法により容易に求められることを示した.これらの成果をIPMU2012, RSKT2012, WUPES2012, MDAI2012で発表した.また,グレード付きイルノウン集合の計算に関する成果は国際学術誌に投稿した. 3.ロバスト順序回帰に対しては,効率的であるが短絡的な通常の順序回帰と大局的であるが非効率的な従来のロバスト順序回帰との中間に位置する区間順序回帰を提案し,この問題が比較的容易に解ける混合線形計画問題に帰着されることを示した.これにより,ある程度ロバスト性がある選好判断を効率的に与える決定支援モデルの基礎が得られた. 4.ポートフォリオ選択問題および多目的計画問題におけるファジィ計画法によるロバスト最適化の成果をまとめ,それぞれ異なった英文学術書の一つの章として提出した.また,線形計画問題における成果をMDAI2012のPlenary Talkとして発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度,新たにグレード付きイルノウン集合を導入したロバストな取扱いについて研究を開始し,今年度,新たにロバスト順序回帰に関する研究を開始した.グレード付きイルノウン集合に関しては,昨年度末から今年度前期に新規性の高い成果がいくつか得られ,四つの国際会議で異なった成果を発表するとともに国際学術誌への論文投稿も完了している.また,新たに開始したロバスト順序回帰に関する研究課題においても新しい成果が得られている.これらに関しては,当初の計画以上の成果が得られているといえる.一方,本研究課題のテーマであるファジィ計画問題に対するロバストな取扱いに関して,異なったテーマで二つの英文学術書への寄稿・執筆依頼があり,過去の成果をうまく纏めるため研究を進め,それだけでも新しい研究成果となる融合モデルの展開や数値例,解概念の新たで重要な性質の証明などを行った.これに想定以上の時間が取られ,一般の必然性測度を用いたファジィ線形計画法に関する研究成果の論文投稿が滞う結果となった.全般的には想定以上の研究成果が得られ,別の課題での論文投稿を行っているものの,予定していた論文投稿が滞っていることを考えると,「おおむね順調に進展している」という評価が妥当と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
まず,(1)滞っている一般の必然性測度および修飾子母関数による必然性測度を用いたファジィ線形計画法に関する研究成果をまとめ,学術誌に論文投稿する.(2)グレード付きイルノウン集合の線形計画問題への応用に関する研究成果を拡張する.昨年度に得られた成果とともに論文としてまとめる.制約条件の左辺の関数や目的関数が明確に分からず区間データとして与えられる場合を想定し関数を推定しながら最適解を求める問題,すなわち,未だまったく検討されていない新しい問題へ,グレード付きイルノウン集合が適用できないかを検討し,可能なら新しいアプローチを創成する.(3)ロバスト順序回帰に関して提案した方法を精緻化するとともに拡張する.特に,各評価基準の最良値の効用値を一つの値で与えている現在のモデルを一般化し,区間値で与えることができないか検討する.さらに,現在の区間効用関数モデルをファジィ効用関数モデルへの拡張を検討する.(4)必然的有効解に対して得られた新たな性質など前年度に得られた成果を国際会議論文としてまとめ発表する.(5)下位の評価関数が不明確な2レベル線形計画問題に対するロバストな取扱いに関する成果を再考し,論文としてまとめる.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は英文学術書への当該テーマでの執筆依頼があり,国際学術誌への論文投稿が滞り,予定していた英文校閲費がかからなかった.一方,グレード付きイルノウン集合に関する研究で多くの成果が得られ,四つの国際会議に出席し異なった研究成果の発表を行ったが,円高の影響や予定外の主催者からの滞在費の支給があり,出費が多少抑えられた.これらの理由により未使用額が生じた.論文投稿が遅れた反面,新規の研究は予定以上に進んでいるため,全体的には大きな遅れはないので,論文投稿を次年度に研究している研究課題と伴わせて実施する.次年度も理論的・方法論的な研究課題であるため,実験設備よりも現在までに得られた成果発表に向けての費用が必要となる.種々のモデルそれぞれにおいて成果が得られているので,成果発表の国際会議として複数のものがあり,IFSA2013(カナダ),CJS2013(チェコ共和国), MDAI2013(スペイン)などの国際会議に出席・発表する予定で,旅費85万円程度と参加費10万円程度が必要と見込んでいる.その他,論文投稿の際の英文校閲に4万円程度,国内学会に出席発表するための国内旅費に13万円程度,その参加費3万円程度,実験補助に10万円程度,消耗品費に5万円程度を見込んでいる.
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