研究課題/領域番号 |
23510171
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
土肥 正 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00243600)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ウェーブレット / 縮小推定 / 確率過程 / 信頼性 / 性能評価 / 金融工学 |
研究概要 |
確率過程の推定問題は理論統計学や計算統計学における中心的な課題であり, これまでに数多くの推定アルゴリズムが提案されている. 本研究課題では, 各種確率過程に対応したウェーブレット縮小推定アルゴリズムの開発と理論的な解析を行い, 信頼性, 性能評価, 数理ファイナンスの各領域におけるウェーブレット縮小推定の応用とその評価, ウェーブレット縮小推定のための汎用ツールの開発を目的としている. 初年度は, 非定常ポアソン過程の推定問題に着目し, データ構造に応じた縮小推定アルゴリズムを改良した. 特に, 頻度論的アプローチのみに着目したため, ハード閾値法とソフト閾値法に対応した閾値水準の決定法を詳細に検討する必要があり, min-max 閾値, level-dependent閾値, universal 閾値, leave-out-halfクロスバリデーションョン閾値などの適用可能性について論じた. さらにハール系ウェーブレット以外についても利用可能性について検討を加え, ドーブシウェーブレットに基づいてソフトウェアフォールト検出時間データを解析する方法を開発した. ツール開発では, データベースとの互換性検討やインタフェース設計を早期に行っておく必要があるため, 初年度から開発作業の検討を開始した. 開発言語は Java であり, システム全体としては100クラスで40000行程度の開発規模を見積もった. 応用研究として, 世界に先駆けてソフトウェア信頼性評価におけるウェーブレット縮小推定アルゴリズムの拡張を行った. 大学院博士課程後期学生 X. Xiao との共同研究において, AnscombeとFisz による正規変換を必要としない閾値法の下で一般的なアルゴリズム設計を行い, 実際の開発プロジェクトで得られたフォールトデータに基づいてソフトウェアの信頼性評価を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
信頼性理論における縮小推定の適用についてはほぼ研究計画通りに推移しており, 権威のある国際会議である 17th IEEE Pacific Rim International Symposium on Dependable Computing (PRDC-2011), The 6th IEEE International Conference on Software Security and Reliability (SERE-2012) において査読付き論文を発表し, 先端的な研究成果を広く公表することが出来た. また, いくつかの理論的・実証的研究成果を学術論文誌に投稿し, A comparative study of data transformations for wavelet shrinkage estimation with application to software reliability assessment, Advances in Software Engineering (in press) が既に採択されており, 現在, Daubechies Wavelet Based Estimation for Software Failure Rate, Wavelet Shrinkage Estimation for NHPP-based Software Reliability Models の二つの論文を IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences (A) 並びに IEEE Transactions on Reliability に投稿中である. よって, 研究成果の進捗状況は概ね良好であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は, 非定常ポアソン過程に加えて非定常マルコフ過程に対するウェーブレットベイジアン縮小推定に関する理論的な解析を行う. また, 点過程以外の確率過程として, ブラウン運動過程や拡散ジャンプ過程のウェーブレット縮小推定アルゴリズムを開発することを予定している. ドリフト係数や拡散係数が時間の関数であるが未知の状況において, 線形確率微分方程式で記述される動的システムのパラメータ推定問題について取り扱う. これまでに開発した推定アルゴリズムと拡散極限の関連を理論的に解析することで, ウェーブレット縮小推定を理解するための理論的枠組みが明らかにすることをぜひ検討したい. また, 既に開発されたアルゴリズムの実装・拡張を行う. 今年度は, 金融商品評価への応用として, パラメータを特定しないノンパラメトリック推定を高速に行うためのウェーブレット縮小推定の適用可能性について検討する. ウェーブレット縮小推定の有効性を金融商品の価格付けに応用するためには, 元資産に関する経済時系列データを解析する必要があり,数年単位の価格データを使った実証分析を行う.性能評価モデルの解析では, 自動車間通信システムの性能評価問題に着目し, ソフトハンドオーバーを伴うCDMD 移動体通信網のモデルである非定常マルコフ過程のオンライン推定について考察する. また, パケット損失率・スループット・遅延時間・回線使用率など, 通信トラヒックの状態に関する変量の分布の裾野の振る舞いは通信品質・アプリケーション性能・ネットワーク設計などに大きな影響を与えるので, この問題にウェーブレット縮小推定を適用し, 研究代表者らの研究グループによって近年開発された高速 EM アルゴリズムとの比較を通じて, 計算効率と推定精度を比較する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は東日本大震災の影響で日本国内で開催予定だった国際学術会議が中止されたり延期されたりした影響で, 予定していた通り研究成果の発表や調査研究を行うことが出来なかった. また, 所属機関の建物がリフォームされることが急遽決定したため, 大型サーバなどの設備を導入する計画を当面見送らざるを得なくなった. そこで平成24年度は, 前年度に十分行うことが出来なかった学会等での調査研究や研究討論の機会を大幅に増やしたいと考えている. これは, トラヒックデータ解析や金融商品価格の取引価格の分析などを行い, さらにベンチマークテストなどの解析を行わなければならないため, 先端研究の動向を把握すると同時に類似研究の調査を徹底するために必要となる. 具体的には, 国内外で開催予定の権威のある国際会議に参加し, 論文発表, 研究討論, 事例データ収集などを行いたいと考えている. 但し, 平成24年度に計上していた設備備品費は平成25年度に移行予定の新しい研究スペースに合わせる形で導入する必要があるので, 平成25年に繰り越すことも視野に入れた経費支出計画を考えている.
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