研究課題/領域番号 |
23510182
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
荻林 成章 千葉工業大学, 社会システム科学部, 教授 (40296306)
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研究分担者 |
徐 春暉 千葉工業大学, 社会システム科学部, 教授 (70279058)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 社会システム / モデリング / エージェントベース |
研究概要 |
1.消費者,企業,銀行,政府からなる人工経済システムモデルを構築しマクロ経済に及ぼす所得税率および法人税率・政府支出政策・消費者貯蓄性向,雇用と解雇の影響について解析した結果、(1)需要と供給による価格の均衡が再現されること、(2)設備投資に伴う銀行借入及び返済によって景気循環が再現されること、(3)GDPに及ぼす徴税の影響は政府支出条件に大きく影響され、政府支出に少なくとも10%~40%の非効率が含まれると仮定した場合に、所得税率とGDPの関係に関する計算値は内閣府の計量経済モデルの結果と定量的に一致すること、などの知見を得た。これらの結果は、ESSA2011、AESCS2011等の国際会議および経営情報学会、進化経済学会にて発表した。一方法人税の影響については実システムの傾向が再現されるには至っていない。その理由はモデルと実システムとの間の相似関係に問題があるためと推定され、相似条件解明の一環として今後詳細をつめていく。2.上記モデルにおいて、消費者および生産者の相互作用の結果、貧富の差等が創発され、(1)消費者の資産、企業の売上高、及び各期の同一製品種の購入製品の最大価格差、などの累積確率分布において、実システムと類似のべき分布が再現されること、(2)べき分布となる傾向はパラメータ条件に依存しエージェント数や製品種数、対象となるデータ数が多いほど顕著となる傾向が観察されること等の知見を得た。これらの知見は、経営情報学会、統計数理研究所研究会にて発表した。3.上記経済システムモデルに金融システムとして株式市場を追加したモデルを作成し、設備投資に伴う資金調達方法の影響について解析した。その結果、GDPに最も有利な資金調達方法はペッキングオーダ-と逆の傾向となった。これは企業の資金調達コストの大小とGDPへの影響が必ずしも正相関ではないことを示している。これらの知見はOR学会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.我が国経済の基本的な挙動を再現できるモデルへの拡張およびモデル条件の解明に関しては、(1)政府、中央銀行を含むモデルへの拡張、(2)労働市場・起業・廃業を考慮したモデルへの拡張、(3)金融市場を含むモデルへの拡張を目標とした。これに対しては中央銀行のモデル化を除くすべての項目についてモデルの拡張を完了し、国および金融システムまでをいれたモデルを一通り構築した。中央銀行は考慮していないが、一般銀行に潤沢な資金を持たせることにより、国債発行機能を除けばマクロな資金循環に関しては特に大きな問題はでていない。一方、プログラムの大規模化に伴い拡張性の問題が顕化してきたためシステム会社の協力を得て完全オブジェクト指向のモデルを作成中である。各プログラムコンポーネント機能が完成し次第順次従来プログラムを新プログラムへ移管していく。研究の主体は旧プログラムで実施しており、順次学会発表していく。23年度は修士学生4名、博士学生1名の体制と恵まれていたため、国際会議2件、国内学会5件、他に経済物理系研究会にて発表した。この発表件数は当初予定以上である。実システム再現のためのモデルの具備条件については、法人税の影響解析の一環で進捗中、実システムとモデルとの相似則の重要性が明かになりつつある。2.人口経済モデルの妥当性評価手法の開発、に関しては、GDPに及ぼす法人税率の影響の再現に関する検討において、種々のパラメータ条件と現実システムとの比較を行い、これらのパラメータ条件の計算結果への影響度合いについて検討している。その結果、消費者および法人の預金額と借入金金額の比率など、いくつかの重要なパラメータについてはそれらの比(無次元パラメータ)が現実システムの比と類似な値となるようにすることが重要であることが明かになりつつある。これらは準同型写像が成立する条件の一つであり、ほぼ順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
マクロ経済と行政策、金融システム、海外との取引等の解析機能に向けてモデル開発を継続する。具体的には、当面現在進めているGDPに及ぼす法人税率の影響について、実システムを再現するために、複数投資借入の同時進行および海外からの投資の影響が考慮できるようにモデル改良を進める。この際、種々の無次元パラメータを実システムの値と整合させる作業を進め、これらの因子の整合性とモデルによる実システム再現との関係を明らかにしていく検討を同時進行で進める。また、金融システムおよび中央銀行のモデル化により、株式市場、国債市場、および実物製品市場が同時に存在するモデルを構築し、これらのモデル条件とモデルによる実システム挙動再現性との関係を究明していく。また、モデルの実システム再現挙動を確認しつつ、必要に応じて、多様な産業分野を含むモデルへの拡張を図る。これにより、我が国経済の基本的な挙動を定性的に再現できるモデル条件を明らかにしていく。また、上記を推進するプログラムは、当面既存モデルプログラムの拡充で成果を出していくが、同時進行で完全オブジェクト指向の新プログラムの機能を拡充し次第に乗り換えていく。新プログラムではモデルの拡張性がよいため、モデルが完成すればスピードアップが期待できる。モデル妥当性評価指標に関して法人税の影響解析の中で、モデルと対比すべき実システムの無次元パラメータの値や分布を調査し、それらの相似条件をモデルに導入して、相似則の考え方の妥当性を検証していく。学会発表はWCSS2012(2012年9月)および進化経済学会、経営情報学会等を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、当面WCSS2012(台湾)にて成果発表のための出張を予定している。他に経済モデリング関連の国際会議および調査のための欧州または米国への出張を計画している。国際会議ではこれまでにWCSS2010、ESSA2011など主に欧州の国際会議にて発表し、成果発表のみならず学会動向などについても概ね把握することができた。2012年度は米国アイオワ大学など特に経済分野でのエージェントベースモデリング関係の研究者(特にLeigh Tesfatsionら)の研究動向を調査したいと考えている。また国内学会での成果発表に関しては、昨年同様に進化経済学会、経営情報学会などへの学会発表を予定し、これらの旅費関係で630千円を計上している。また昨年システム開発会社にオブジェクト指向プログラム実装関連でコンサルティング作業を依頼した。現在この活動で作成したクラス設計とスケルトンプログラムに基づき、より洗練された構造のプログラムに向けて機能アップ作業を推進している。ある程度まとまった時点で再度システム専門家のコンサルティングが必要と考えており、24年度もモデル開発用コンサルティング作業費として200千円を予定する。また国内研究者との研究会および作業補助依頼等で、人件費・謝金を150千円を計上する。そのほか、物品費は昨年に比べ大幅に減らして100千円、その他120千円を予定し、総額は昨年繰り越し額の200千円を含めて1200千円を予定している。
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