研究課題/領域番号 |
23510182
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
荻林 成章 千葉工業大学, 社会システム科学部, 教授 (40296306)
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研究分担者 |
徐 春暉 千葉工業大学, 社会システム科学部, 教授 (70279058)
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キーワード | 社会システム / モデリング / エージェントベース |
研究概要 |
1.消費者、企業、銀行および政府からなる人工経済システムにおけるGDPに及ぼすモデル条件の影響について解析した結果、①法人税減税の乗数を再現するためには、税引き後利益から支払われる経営者報酬、設備投資における利益剰余金の活用および政府支出の非効率性の存在の3条件が不可欠であることが分った。このことは徴税・公共投資に関わるシステム挙動メカニズムにおいて、法人の剰余金の銀行から市中への流出がシステム構造として本質的に重要であることを示している。これらの結果はWCSS2012において発表した。また所得税の影響に関わる研究成果については昨年度AESCS2012に発表し、本年度Post Conference Proceedingsに選出されジャーナル論文として掲載された。更に減税・公共投資の乗数の理論式を導出した結果、理論式とモデル計算結果は定性的に一致し、減税乗数に対して政府支出の非効率性と企業投資が密接に影響していることが分かった。 2.上記経済システムモデルに株式市場を追加したモデルを作成し、株式市場と実物市場との相互作用について解析した結果、実物市場の物価とGDPは連動するが株価は設備投資に伴う株式発行が影響しGDPとは連動しないこと等の知見が得られた。この傾向は日本経済の過去の傾向とも一致している。また投資戦略と収益率の関係について解析した結果、リスク重視の戦略が最も高いリターンを得られる傾向にあることが分った。これらの結果は中国にて開催されたACMSA2012にて発表した。Post Conference proceedingsの査読審査対象に選出され査読論文として仕上げる予定である。 3.昨年度末に行ったシステム会社コンサルティング作業による、より洗練されたオブジェクト指向によるスケルトンプログラムに種々の機能を追加する作業は、本年7月完成を目標に継続して実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我が国経済の基本的な挙動を再現できるモデルへの拡張およびモデル条件の解明に関しては、①政府中央銀行を含むモデル、②多様な産業および労働市場を含むモデル、金融市場を含むモデル、等への拡張を目標とした。これらの内、労働市場を含むモデル、株式市場、公共政策効果を再現できるモデルへの拡張は達成できた。この結果、公共政策や徴税による乗数効果等や金融市場と実物市場の相互作用などを再現でき、我が国経済の基本的な挙動を再現できるモデルの構築は達成できたといえる。一方、プログラムの大規模化に伴い、新機能を追加するごとに、それに要する作業量が予想以上に膨大となることが判明した。そのため、より洗練された完全オブジェクト指向の新プログラムを作成するべく、システム会社のコンサルティングを受けて新プログラムへの移行を推進中であるが、予算の制約からシステム会社への依頼は極めて単純機能のスケルトンプログラムにとどまったため、殆どの機能追加を自前で行っており、その作業量が予想以上に膨大なため完了には至らず引き続き作業中である。また、人工経済システムの大規模化に伴い、実システムの挙動を再現するための経済諸要因の具備条件の探索にも膨大な作業が必要となることが判明した。そのため現モデルに更に中央銀行機能などを追加していくためには、ソフトウェア上において各要素間の取引が柔軟に変更できるフレームワークが必要となるため、完全オブジェクト指向の新プログラムへの移行ではその点も考慮したとシステム設計作業を行っている。このため、研究の主体は引き続き旧プログラムを用いての実施となったためやや遅れ気味の進捗となっている。 実システム再現のためのモデルの具備条件については、マクロ経済要因にかかわるシステム構造に加えて、各経済主体の数や資産の比を極力実システムと類似した値とすることが必要であること等新規な事実が判明しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
マクロ経済に及ぼす行政政策の影響に関して新たな追加知見を得るための解析を旧プログラムを用いて実施しつつ、平行して新プログラムによるモデル構築を進める。新プログラムの完成は7月を目標とし、既存プログラムにおける計算結果の新プログラムによる再現確認を行った後、新プログラムを用いて、国債市場や海外取引等の解析機能の実現に向けてモデル開発を継続する。当面、現在進めている公共サブシステムにおけるGDPに及ぼす税率、公共支出の効率性、各経済主体の限界消費性向の影響について解析を進めると共に、新プログラムを用いて、国債市場機能を追加し長期金利が計算できるモデル開発を目指す。また、実物経済モデル構造を実システムと類似させるため、労働市場、企業の新規参入及び、産業構造の多様化、消費者構造の多様化を考慮した労働産業サブシステムの拡張と充実を図る。 また、妥当性評価指標に関しては各経済主体の数や資産分布などに関する実システムデータの比に着目して、マクロ経済挙動の再現性に及ぼすモデル構造およびパラメータ構造の影響を解析し、実システムとモデルの間で準同型写像が成立するための条件を実験的・理論的に検討する。 上記と平行して、昨年WCSS2012やACMSA2012で発表した論文をジャーナル論文として投稿するための作業を進めつつ、新たな知見はCSSSA 2013(2013年8月)及び進化経済学会、経営情報学会(秋季)、社会経済システム学会(2013年10月)等に発表していきたいと考えている。またマクロ均衡に基づく乗数理論式を導出できたことにより、ケインズによる公共投資を効果的にするための条件が明らかになってきていることから、これらの結果をマクロ経済政策に関わる国際会議であるPEIO2014(1月、米国)に発表することも検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は当面CSSSA 2013(8月サンタフェ、米国)への成果発表のための出張を予定している。また、現地との調整がつけば、CSSSAに合わせてサンタフェ研究所やサンディア研究所、ジョージメイスン大学などを訪問し、米国における経済分野でのABM関係の研究動向の調査も併せて行いたいと考えている。また予算等事情が許せば、PEIO2014(1月プリンストン、米国)にも参加し、公共投資・減税の乗数式に関わる知見を発表するとともに、マクロ経済政策検討へのABM利用等に関して議論・情報収集を行う。また、国内学会での成果発表に関しては経営情報学会(秋季、神戸)、社会・経済システム学会(京都)、進化経済学会等を予定している。これらの成果発表のための旅費関係に630千円を計上している。また、現在作業に遅延が発生しているオブジェクト指向プログラム実装関連について、前年度予定していたシステム専門家による再度のコンサルティングが必要になるものと考えられ、作業費を物品費・その他費用の中から拠出する予定である。更に、国内研究者との研究会及び作業補助依頼等で、人件費・謝金を150千円を計上し、総額は1000千円を予定している。
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