研究概要 |
消費者、企業、銀行および政府からなる意思決定主体及び実物商品市場及び株式市場,労働市場を含む人工経済システムモデルを構築し、主なマクロ経済基本現象が再現できること、また各マクロ現象再現のためのモデル条件を明らかにした。最終年度では特にマクロ現象再現のためのモデル構造に着目し、追加計算を実施するとともに数理モデルを用いた検討を行った。その結果以下のことが明らかとなった。 1.エージェントベースモデルでは、着目するマクロ現象ごとにそれを再現するための必要不可欠なモデル構造が存在し、そのモデル構造は主としてエージェントの種類と行動ルールを種々変更したコンピュータ実験により解明できることがわかった。これはマクロ経済現象が、関係する意思決定主体の行動とその相互作用の結果として創発されるためであり、エージェントベースモデリングが、社会現象メカニズム解明の有効な手段となりうることが少なくとも部分的に検証できた。 2.本研究で検討した主なマクロ経済現象とそれを再現するためのモデル構造に関して明らかとなった事柄は概略以下のようにまとめられる。 ①価格の均衡の再現は、消費者の低価格指向購買行動および生産者の在庫管理指向の生産量および価格設定行動、②サプライチェーンの影響の再現は、階層構造の生産者と消費者を含む人工経済システムにおいて、資金が自己完結的に循環すること、③景気循環挙動の再現は、生産者の自律的な設備投資判断及び設備投資における銀行借り入れと返済による資金調達が含まれていること。④所得税の減税乗数がプラスであることの再現は、政府支出の非効率性がモデルに含まれていること、⑤法人税の減税乗数がプラスであることの再現は、政府支出の非効率性に加えて、経営者報酬および設備投資に際しての自己資金活用が含まれていること、がそれぞれのマクロ現象に対して必要不可欠なモデル構造であることが明らかとなった。
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