研究概要 |
今年度は主にプロジェクトのリスク低減の観点からの研究と並行してプロジェクト教育に関する研究を行い以下の成果を上げた. まず,計画段階の見積精度向上と要求変更の及ぼす影響評価の研究を行った.ソフトウェア開発において開発規模の推定は重要である.初期段階では,情報の不完全性により,開発規模は一般に過小評価されてしまう.そこでシステムのステークホルダーが開発規模へ与える影響を考慮してユースケースポイント法を基に開発規模を評価する方法を提案した.その中でユースケース毎にユーザーが持つ属性を計測して開発規模への影響を検討したことと,非機能要件による開発規模の増加は非機能要求グレードを用いて考慮したことに特徴がある.関連して,開発途中での要求変更がプロジェクトの失敗原因の一つとなっていることに着目した.開発途中での要求変更を実装する場合には単純に作業量が増加を評価するだけでなく,システム全体に与える影響を評価する必要がある.そこでプロジェクト内の開発状況を考慮して,要求変更が構築済みシステム全体へ与える影響度合いの評価方法をモデル化した要求変更の作業量の定量的な見積り方法を提案した. 教育に関する研究では,まず,プロジェクトの基本的考え方と事例を交えた本を書き上げた. さらに,プロジェクトが有効に機能しない原因として,的確な人材が配置できていないことが挙げられる.プロジェクトメンバーは,プロジェクトの目的に合わせて,経験や技能を鑑みて集められる.しかし,メンバーは様々な個人特性を持っているため,コミュニケーションがうまくいかないことがある.そこで,個人特性を考慮することでプロジェクトの生産性を高めるチーム編成について検討することを研究目的とした.今回は,大学の演習をプロジェクトと見なし,異なるタイプの演習において成績向上につながるチーム編成に関する提案を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロジェクトマネジメントは個々の能力に依存することが大きい.さらに,同じような情報が様々な意味を持つ場合が多い.本研究では,「要件定義の曖昧さの減少がリスク減少に繋がる」と考えている.本研究の特徴を挙げると以下のようになる. まず,企業および大学(国内外)に対する実態調査を行うことに大きな特徴がある.これに関しては現在も続行し,その一部を本にまとめた. 次に,情報の整理に人工知能の分野をはじめとするコンピュータの世界で用いられている,「概念化の明示的な仕様」と定義されるオントロジー技術の活用と設計側が技術情報に基づく意味情報(メタデータ)やシソーラスの活用を検討した.これに関しては,今後まとめて行く予定である. さらに,製造業で培われてきた品質管理や信頼性管理などの考え方や手法を基に,プロジェクトマネジメントにおけるコミュニケーションに定量的評価尺度を導入を検討してきた.これは十分に新規性があり,研究成果を発表しさらに投稿中である.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度予定より支出が少なかった(1,219,175円)のは,コンピュータおよび関連設備の購入が少なかったことと,情報収集のためのインタビュー謝礼や出張が少なかったためである.それに対して,次年度は最終年度であるため,研究成果の発表を国内外で複数回行うことを考えている.それに伴い資料作成のための支出が予定より多く見込まれる.そこで次年度は研究計画に沿って研究を行うに当たって,次のような研究費の使い方を考えている. ・データ収集のための知識提供に対する謝礼金と消耗品購入費用と書物などの購入費用,さらに情報収集のための旅費 ・成果発表資料作成のための費用と謝礼金,そして成果発表のための国内外での大会参加費と旅費 ・分析用の機器とソフト
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