本年度は,不確実性に対応する作業工数の見積り方法を確立した。作業工数とは,作業実施に必要な資源量と所要時間の積で表される。本研究で考案した作業工数のモデルでは,作業工数の変動分布と必要資源量の上限および下限が既知であると仮定する。作業工数の見積もりおよびプロジェクト・スケジュール生成のための評価尺度として,各作業開始時刻の期待遅延費用を導入した。これにより,作業開始時刻の予測精度が高いという意味でのスタビリティ向上を指向した作業工数の見積もりが可能となる。提案方法では,各作業の必要資源量と所要時間を逐次的に変更および改善しつつ作業工数を定めていく。数値実験では,所要時間の見積もりをベータ分布の期待値で与える方法や,典型的な三点見積り法を比較対象として,提案手法の有用性を検討した。この実験では,60作業数と120作業数のベンチマーク問題例を取り上げ,実際の作業時間の変動が予想どおり,大きい,あるいは小さい場合を想定し比較検討を行った。実験の結果,考案した作業工数の見積もり方法は,実際に発生する作業開始時刻の遅延費用を低減することに対して概ね良好であることが明らかとなった。 以上の研究成果は国内研究講演会や国際会議にて発表した。さらに大きな規模の問題例に適用するなど追実験を行い投稿論文として準備している。ただし,数百・数千の作業数に対する高速かつ効率的なスケジュール立案方法は開発途上である。 一方,作業工数の見積もりの考え方を生産システムにおける生産能力計画問題に応用し,不確実性の生起に対する変動が少ない負荷計画の生成方法についてもを検討を始めた。比較的簡単な多品種少量型生産システムを対象として数値実験を行い,作業工数の見積もり方法が適用可能であることを確認した。
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