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2012 年度 実施状況報告書

災害科学の専門家による情報発信の傾向:状況と立場が与える心理的バイアス

研究課題

研究課題/領域番号 23510219
研究機関東京大学

研究代表者

大木 聖子  東京大学, 地震研究所, 助教 (40443337)

研究分担者 中谷内 一也  同志社大学, 心理学部, 教授 (50212105)
横山 広美  東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50401708)
キーワード災害情報
研究概要

2012年10月に,告訴されていた科学者5名と行政担当者2名に,禁錮6年の有罪判決が出た.本件についてイタリアに電話問い合わせをすると共に,900ページに及ぶ判決文や,大災害委員会の議事録および議事メモを入手し,必要に応じて英訳,日本語訳をし,研究代表者のウェブサイトから公開したところ,大きな反響があった.広く日本人にも関心の高いテーマであることを再認識した.また,2013年3月には現地に赴き,被災住民と被告研究者および行政官にインタビューを行った.
入手した資料やインタビューによると,科学者たちは委員会の中で概ね,まったく大地震にならないとは言い切れないが,多くの群発地震が大地震につながらずに終わっているという一般論を述べている.たとえば議事録によると,ある科学者委員は「多くの群発地震は大地震へつながっていない.当然ながら,ラクイラは地震地帯であるため,大地震にならないと断言することはできないが」と述べている.この一般論の中では「まったく大地震にならないとは言い切れない」が重要で,少なくとも委員会後に行政官が担当した記者会見ではこの点を強調すべきであった.
また,住民が起訴の理由としている「大災害委員会による安全宣言」とは,委員会開催前の行政官による以下の発言だけであることがわかった.すなわち「小さい地震が頻発するのは,エネルギーが放出されて,むしろよい兆候である」.これが地震学的にはありえないことであり,コミュニケーションのあり方以前に,地震学者であれば科学的にこのような発言はなされない.しかも現地報道局は,これをあたかも委員会後のインタビューのように放映し,人々に安全宣言の印象を与えたのである.その上で,記者会見の音声は全社が紛失するという事態になっている.
本件については引き続き調査をすすめ,残る2名の被告へのインタビューを元に事実をまとめ,日本への教訓として報告する.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

遅れている理由として,本研究開始直前に発生した東日本大震災への対応と,イタリアの裁判制度による判決の遅れが挙げられる.一方で,被告となっている現地研究者やその周辺の研究者が本研究に協力的であることこから,資料やインタビューが予想よりも滞り無く進んでいること,日本国内における関心が高いことから,国内の報道関係者から情報提供を受けられるなど,計画当初に感じていたよりも容易に進んでいることもある.以上のことから,やや遅れはあるものの,計画は順調に進んでおり,内容については充実したものとなっている.

今後の研究の推進方策

残る2名の委員会メンバーと可能であればラクイラ市長へのインタビューを6月末に実施し,委員会における研究者および行政官の発言について事実関係の確認を行う.これまでに得られた資料とインタビュー内容を元にラクイラ地震に関する研究者訴追事件についてまとめる.さらに国内外の災害科学研究者への教訓として,コミュニケーションの観点からまとめ,実際に国内の政府委員となっている研究者に協力を仰いで内容の改善をはかり,論文として投稿するのはもちろんのこと,より多くの研究者や報道関係者に周知できるような情報発信を行う.

次年度の研究費の使用計画

イタリアへの海外出張旅費,および学会発表のための国内外出張旅費.アンケート調査まとめのための謝金.イタリア語通訳あるいは英文校閲費と論文投稿料.国内の研究者へのインタビューや意見交換のための国内出張旅費.効率的な情報発信のための環境準備にかかる支出など.

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2013 2012 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件) 図書 (3件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] aradoxical effects of the record- high tsunamis caused by the 2011 Tohoku earthquake on public judgments of danger2012

    • 著者名/発表者名
      atoko OKI and Kazuya NAKAYACHI
    • 雑誌名

      International Journal of Disaster Risk Reduction

      巻: 2 ページ: 37‐45

    • DOI

      doi.org/10.1016/j.ijdrr.2012.07.002

    • 査読あり
  • [学会発表] Communication of Disaster Sciences; Possible Pitfalls of Science Communication2013

    • 著者名/発表者名
      atoko OKI and Kazuki KOKETSU
    • 学会等名
      Public Communication of Science and Technology
    • 発表場所
      Christchurch, New Zealand
    • 年月日
      20130221-20130221
    • 招待講演
  • [学会発表] Knowledge, awareness, and preparedness unlinked in layperson2012

    • 著者名/発表者名
      Satoko Oki, Kazuya Nakayachi
    • 学会等名
      American Geophysical Union
    • 発表場所
      San Francisco, USA
    • 年月日
      20121203-20121203
  • [学会発表] 知識の獲得・防災意識の高揚・防災行動の関連性2012

    • 著者名/発表者名
      大木聖子,中谷内一也
    • 学会等名
      日本地震学会秋季大会
    • 発表場所
      函館市民会館,函館市
    • 年月日
      20121019-20121019
  • [学会発表] School Education Under the Limitations of Science: Cases for 2011 Tohoku Earthquake2012

    • 著者名/発表者名
      Satoko OKI and Kazuki KOKETSU
    • 学会等名
      Asia Oceania Geosciences Society
    • 発表場所
      Singapore, Singapore
    • 年月日
      20120817-20120817
    • 招待講演
  • [学会発表] リスク・クライシス管理としての災害科学情報2012

    • 著者名/発表者名
      大木聖子,纐纈一起
    • 学会等名
      地球惑星科学連合大会
    • 発表場所
      幕張メッセ,千葉市
    • 年月日
      20120524-20120524
    • 招待講演
  • [図書] これからどうする2013

    • 著者名/発表者名
      大木聖子
    • 総ページ数
      150
    • 出版者
      岩波書店
  • [図書] 科学2012

    • 著者名/発表者名
      大木聖子
    • 総ページ数
      85
    • 出版者
      岩波書店
  • [図書] リスクの社会心理学2012

    • 著者名/発表者名
      大木聖子
    • 総ページ数
      250
    • 出版者
      有斐閣
  • [備考] ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について(1)ー(7)

    • URL

      http://raytheory.jp/2012/10/201210_laquila1/

URL: 

公開日: 2014-07-24  

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