研究課題/領域番号 |
23510222
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
佐藤 満 昭和大学, 保健医療学部, 准教授 (10300047)
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研究分担者 |
井野 秀一 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 研究グループ長 (70250511)
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キーワード | 地震災害 / 救命活動 / 救命機材 / 水素吸蔵合金 / シール技術 |
研究概要 |
本課題が目指す機器の実現に不可欠な技術要素は、機器備蓄時の水素吸収を維持しながら、より低温での水素放出特性に優れた「水素吸蔵合金の開発」、水素密閉性を高めた昇揚機構等の「動力変換部の開発」、水素放出に不可欠な「熱源と熱伝導部の開発」、救命隊員等が現場で使用する際の「ユーザビリティー」がある。このうち、「水素吸蔵合金」は昨年度より試作していた低温での水素放出性能が高い組成(LaNi5系)の特性の評価を実施した。これまでの組成より水素放出・水素吸収とも反応速度が向上していることを確認した。「動力変換部」は、重量物排除としては最も単純な形式に相当する伸縮昇揚型装置の伸縮機構部の設計と試作を実施した。水素密閉性を担保するシール機構は運動Oリングと固定Oリングのセットを基本としているが、さらにシーリング性を向上させるための機構として、昇揚機構の内部に複層アルミラミネートフィルムを加工した密閉伸縮部材を配置する機構としている。この膜材料を用いた水素密閉フィルム部は、実用化を考慮するとさらに高い気密性と加工性が求められるため、複数の新規試料で置き換える試験を実施する準備を行っている。「熱源」については小型軽量で発熱量が高い生石灰やアルミ粉末の加水反応を利用した加熱ユニットを開発するための基礎実験として、生石灰の量を変化させた場合の水素吸蔵合金から放出される水素量と反応速度特性を確認する実験を行った。その結果、およそ10gの水素吸蔵合金を外殻容器の外側から加熱する条件であっても、60gの生石灰があれば、要求される水素放出速度が得られることを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題が目指す装置の開発に必要な技術要素のうち、本装置に適した「水素吸蔵合金の開発」に関しては、概ね達成されている。水素圧を救命作業に適した出力に変換する「動力変換部の開発」に関しては、昨年度に実施した消防庁特別高度救助隊(ハイパーレスキュー隊)の隊員からの仕様や操作性に関する要求レベルの聴取から、災害現場では最もシンプルな機構の機器が適しているとの指摘を受け、複雑な動力伝達による機器よりも最も単純な機構である伸縮昇揚型機器の開発を優先している。昇揚推力1トン超の水平昇揚型機器の外殻部については設計と試作が達成されている。水素気密性を担保する機構は水素ステーションのディスペンサーカプラ用のOリングを使用することで、十分なシーリング性能が確保されている。しかし、筐体破損など万が一の事態に備えた内包二重シール部材の開発は、複層アルミラミネートフィルムの代替品選定が滞っているため、当初の予定よりも遅れている。災害現場でも容易に使用出来る「熱源と熱伝導部の開発」は、生石灰による実用的出力(水素放出)が実現出来ており、昇揚機構本体へ取り付けるアタッチメント部の開発がこの先の課題として残っている。救命隊員等が現場で使用する際の「ユーザビリティー」に関しては試作機が完成してからの評価実験となるが、ハイパーレスキュー隊からの要求仕様聴取により、シンプルな機構と、簡易な操作で迅速に作動させられることが優先させた熱源を独自に設けて装置本体に着脱する方式の開発を優先させる方針に変更しているため、設計段階からの一定レベルのユーザビリティーが確保されていると見込んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の最終年度である平成25年度は、重量物排除用の垂直昇揚装置の実機試作を行う。試作に向けて残されている課題は2つあり、ひとつは本装置の水素機密性をより確かにし、過酷な使用環境においても、堅牢なシーリング機能を備えるために、装置内部のシーリング空間を設けて二重気密構造とし、内部シーリング空間内で水素吸蔵合金の反応と、圧力-運動変換させる機構を実現するという課題である。現時点で採用している内部シーリング用素材である複層アルミラミネートは気密性があるものの、製品化の際にベローズ構造に加工する工程が複雑であるため、より加工が容易でありながら、アルミラミネートに準ずるかそれを上回るシーリング機能を有した素材を数種類選定し、シーリング試験を行うことで使用素材を決定し、内部構造の試作を行う。本装置試作に向けたもうひとつの課題は、生石灰をパッケージし、装置本体に容易に組み込めて、瞬時に水素吸蔵合金から水素放出を起こさせる加熱ユニットの開発である。過酷な使用環境でのユーザビリティーを考慮すると、加熱機構は装置本体に内蔵して間接的な操作によって駆動させるよりも、加熱ユニットを本体にはめ込む操作によって、発熱を開始する方式の方がより好ましい。この2つの課題の解決によって試作機は完成する。その昇揚出力や動作速度等の性能評価を実施するまでを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の申請時に主要物品として計上していたヘリウムガスを用いた気密素材特性評価装置用に使用するヘリウム検知器は、該当機器が生産中止に至ったため、分担研究者の所属施設にある同等の検知器で代用する。この物品に相当する経費は、シーリング性能評価装置の製作費としてその一部の部材の購入に使用するほか、本装置を連続駆動させた際のシール性を測定する装置の製作や、シーリング性能評価をH2でも実施するための、水素ガス測定器や評価装置の筐体、水素シール部材等の購入に流用する予定である。さらに、本装置の内部シール機構の開発に不可欠な水素シール性に優れた膜材料をメーカーから購入する費用、および小型熱源の試作に必要な生石灰のパッケージングとアタッチメント化に必要な部材購入費用に充当する予定である。また、試作機の製作に必要なジュラルミン部材とその加工費、配管部品とコネクト部品、生石灰の購入、熱源ユニットの加工費を計上する。これらはいずれも消耗品としての支出となる。さらに試作機完成後に実施する昇揚出力計測のための試験の外注費用や、試作機のユーザビリティーをさらに向上させるために京都府の消防特別高度救助隊等の機器利用者との情報交換、アルミラミネートに準ずるかそれを上回るシーリング機能を有した素材選定の情報収集、分担研究者との研究打合せ等の旅費等に使用する予定である。 なお、平成25年度も50万円以上の主要物品の購入は現在のところ行う予定はない。
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