研究課題/領域番号 |
23510228
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
脇水 健次 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00240903)
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研究分担者 |
西山 浩司 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20264070)
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キーワード | 人工降雨 / 気象レーダー / 氷晶 / 液体炭酸 / レーダーエコー / 干ばつ害 |
研究概要 |
人工降雨に伴う増雨効果を的確に評価するためには,「雲の特性」および,「発生しやすい気象条件」を十分に把握しておくことが必要である.そこで,今までに人工降雨実験を実施してきた九州北部地方を対象として,昨年度よりデータ数を増やし,雲厚,輝度温度およびレーダーエコー等を用い,冬季の雲の特性および気象条件について解析した.その結果,①雲厚が800~1600m,②輝度温度が‐6~‐14℃,③大陸からの寒気が,並み以下の強さで北,北西,西の風が卓越する時と判明した. さらに,人工降雨実験で得られた結果に対する評価手法として,一つの氷晶の成長及び軌跡を推定する簡単な「雲物理モデル」の適用を試みた.評価対象として,2008年1月17日の人工降雨実験を選んだ.その実験では,長崎県松浦市の北30kmの玄界灘上空に存在する,雲底600m,雲頂推定2000mの層積雲に対し,航空機から液体炭酸を撒布した.その結果,撒布後53分(12時33分)から80分(13時00分)までの間,松浦市から佐世保市北部にかけて,レーダーエコー(防衛省長浦レーダー)が単独した形で出現した.その人工降雨結果を簡単な「雲物理モデル」を用い評価した結果,氷晶は,積雲の雲頂2020mに達し,雲内上昇流の影響で暫く落下が妨げられ,上空の西風成分の影響を受け,東南東へ移動,その後,北東風が卓越する高度まで落下し,南西方向に向きを変え,長浦レーダーのビームの中心高度まで落下した.水平方向で見ると,競争成長が強いほど,滞空時間が長くなり,落下地点が自由成長の場合に比べ,南南西側に移動した.上昇流の減衰が早いケースは滞空時間が短く,落下位置は西側にずれた.以上のように,この簡単な「雲物理モデル」は,雲に関する多くの仮定を含む欠点を持つが,それを不確定要素として扱えば,軌跡に対する依存性を明瞭に把握することが可能になることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工降雨に伴う増雨効果を的確に評価するために必要な「雲の特性」および,「発生しやすい気象条件」が,今までに人工降雨実験を実施してきた九州北部地方を対象とした解析により,次のように判明した.雲の特性は,①雲厚が800~1600m,②雲の輝度温度が‐6~‐14℃のとき.発生しやすい気象条件は,①大陸からの寒気が,並み以下の強さで北,北西,西の風が卓越する時.これらの結果から人工降雨実験後の増雨効果を今までよりさらに的確に評価できることとなった. さらに,人工降雨実験で得られた結果に対する評価手法として,一つの氷晶の成長及び軌跡を推定する簡単な「雲物理モデル」の開発を試みた.この簡単な「雲物理モデル」は,雲に関する多くの仮定を含む欠点を持つが,それを不確定要素として扱えば,軌跡に対する依存性を明瞭に把握することが可能であることも判明した. 研究成果の一部は,学会{AGU(American Geophysical Union Annual Fall Meeting),水文水資源学会,農業気象学会等}で発表済みである.
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今後の研究の推進方策 |
①非降水雲に対する航空機による液体炭酸撒布実験を実施する. ②九州大学気象レーダーを用い,気象庁レーダーでは把握できない,実験時の低層(地面から1000m付近まで)での降水現象を集中的に観測する. ③非降水雲に対する液体炭酸撒布後の数値シミュレーションの開発をする. ④人工知能(AI)技術を駆使したより精度の高い「非降水雲の発生環境診断手法」の開発を通して,非降水雲から人工的に降水を引き起こす基礎的技術の開発を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
①航空機を使用した人工降雨実験を2回実施(50万円/1回)するために使用する. ②実験時の旅費や研究成果を国内外の学会(AGU,水文水資源学会,気象学会等)にて発表するための旅費として使用する.
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