研究課題
本研究は、線虫及びヒト癌細胞における異常スプライシングRNAを網羅的に同定し、その生成機構を明らかにするとともに、異常スプライシングのヒト癌発症機構における意義を解明することを目的としている。研究開始年度である平成23年度においては、以下の研究成果をあげることができた。線虫Y14をRNAi法によって阻害した場合に起きる生殖細胞の性決定異常は、卵母細胞形成を促進するtra-2遺伝子のイントロンを含む未スプライシングRNAが細胞質に漏出し、その後に細胞質スプライシング酵素であるIRE-1によって異常なスプライシングを受けて生じたtra-2 RNAから生成するタンパク質が原因であることを明らかにした。また、この異常なTRA-2タンパク質は正常なTRA-2タンパク質の機能を阻害することをトランスジェニック線虫株を用いた実験によって確認することができた。さらに、Y14阻害時の未スプライシングRNAの細胞質への漏出には、通常のmRNA輸送因子ではないCRM-1やNXF-2が関与していることを明らかにした。加えて、Y14阻害時に細胞質において異常スプライシングを受けるtra-2以外の遺伝子を4個見いだすことができ、これらの異常スプライシング部位に一定の共通性を見いだした。以上の知見は、生殖細胞の性決定過程におけるRNA制御の重要性を示すとともに、イントロンを含むRNAが核内に繋留されるための積極的な機構が存在することを示している。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度においては、1)線虫Y14阻害時に生成する異常スプライシングRNAの網羅的同定、2)ヒト癌細胞における異常スプライシングRNAの網羅的同定、3)Y14阻害による未スプライシングRNA漏出の一般性の検証の3点を中心に解析を進めることとしていた。1)については、異常スプライシングを受ける遺伝子を複数同定できたことから、ある程度達成できたと考えている。2)については、線虫を用いた解析に時間を要したため、平成24年度に行うこととした。3)については、哺乳類培養細胞を用いてY14を阻害した結果、線虫で見られるような未スプライシングRNAの細胞質漏出はほとんど起きないことを示唆する結果を得た。しかし一方で、Y14に依存してスプライシングを受けるイントロンの存在を示唆する結果を得ることができた。
スプライシングを受けた後にmRNA上に形成されるEJC構成因子のY14が、スプライシングを受ける前のイントロンを含むRNAの核内繋留に関与することが明らかになったので、今後はY14以外のEJC構成因子が同様に未スプライシングRNAの核内繋留に関与するのかどうかを解析する。また、Y14と相互作用するスプライシング因子の同定を行うことによって、未スプライシングRNAの核内繋留の分子機構を明らかにする。さらに、細胞質における異常スプライシングの分子機構とその意義の解析を進めるとともに、哺乳類細胞で発見したY14に依存するイントロンの特徴の解析を進める。
次年度に使用する経費が約29万円あるが、この大部分は旅費である。現在当該研究に関する論文を執筆中であり、今後国内及び国外の学会において研究成果を発表する予定であり、旅費が相当にかかる見込であるため、平成23年度の旅費を平成24年度に繰り越し、合わせて使用することとした。
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